地域の小学校に重度障害児が通うこと
二男の就学をめぐって埼玉県教育委員会と向き合った3年間で、私の視野は大きく広がりました。地域の小学校に重度障害児が通うことについて、特筆しておくべきを2点に絞って、前号同様、後に続く障害児及びその保護者のために一言書き留めておきたいと思います――。
二男の就学をめぐって埼玉県教育委員会と向き合った3年間で、私の視野は大きく広がりました。地域の小学校に重度障害児が通うことについて、特筆しておくべきを2点に絞って、前号同様、後に続く障害児及びその保護者のために一言書き留めておきたいと思います――。
今月(2013年4月)で9歳になる二男が市立小学校の特別支援学級に入学し、新しい学校生活が始まりました。これにより私たち家族が、埼玉県立の特別支援学校と直接関わることはもうないでしょう。
二男の就学をめぐって埼玉県教育委員会と向き合った3年間でわかったことは、【埼玉県教育委員会が県立特別支援学校の運営にあたり“一人一人のニーズに対応した支援はできない”と考えている】ことでした。後に続く障害児及びその保護者のために、この点について一言書き留めておきたいと思います――。(※次号に続編あり)
2013年4月で9歳になる二男について、市立小学校の特別支援学級への入学が決まりました。二男には脳性まひによる重い障害があり、鼻からのチューブで水分等を補う医療的ケアが必要です。私たち夫婦は共働きのため、いまは看護師が配置された市立保育所に通っています。
約3年前、私たち両親は、学齢に達する二男の就学先として、施設が整っていて看護師も配置されている埼玉県立の特別支援学校(以下、県支援校)を希望しました。
しかし、県支援校では、埼玉県教育委員会(以下、県教委)のガイドラインにより看護師が扱うケアを厳しく制限し、代わりに親を一律に待機させて対応していることがわかりました。看護師によるケアが受けられたとしても4週に1週は必ず待機しなければならず、放課後の学童保育もありません。県教委の担当者から「待機で仕事できないなら生活保護を受ければよい」とまで言われました。
これに対し改善を求める手紙を上田清司知事や県教委に送り続けましたが、すべて「ご協力」の一言で返されて、まともに取り合ってはもらえませんでした。2011年改正の障害者基本法は、学校側に合理的配慮を義務づけています。なのに二男はこの2年間、就学猶予を受け学校に通っていません。
こうした状況を受けて川越市教育委員会は2012年1月、市立小学校を就学先とする検討を始めました。その意向を伝えられた私たち両親も、県支援校への就学を断念することにして今回の結論に至りました。いろいろな制約を乗り越えて二男を受け入れる判断をしてくださった川越市に、深く感謝している次第です。
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なお、以上の経緯の一部について先日、以下のとおり、新聞やテレビで報道されましたのでご紹介しておきます。(※一部報道にある「先天性の」は誤りです。)
埼玉県立三郷特別支援学校で2011年、31歳の女性教諭が複数の児童に虐待を繰り返し、校長や教頭らも虐待の事実を知りつつ放置していた問題で、埼玉県教育委員会が同教諭らを懲戒処分したことが先週報道されました。処分の内容は減給10分の1(教諭は6ヶ月、校長らは1ヶ月のみ)という極めて軽いものでした。(※県教委は、「体罰」と言い替えて「虐待」を認めていません。)
女性教諭は、小学部低学年クラスの教室で男女3人の児童に対し、頬を両手でたたいて挟んだり足をけったりした上、「嫌い嫌い、帰ってくんな、もう二度と」「見飽きた、あんたたちの顔」「人に助けを借りることばかり考えやがって」などの暴言を吐いたとされています(産経新聞、毎日新聞ほか)。
これら虐待の事実について女性教諭は「他の人が見るとそう見える(かもしれない)」(東京新聞)とか、足を蹴る行為について県教育局は「足に足をあてる」(朝日新聞)とか、まるで他人事。当事者として事態に正対できていません。軽い処分で幕引きを図ろうとする県教委の浅ましき魂胆も透けて見えます。人様に教育をする立場の人たちの、見事なまでの反面教師ぶりです。
そもそも特別支援学校とは、人に助けを借りなければ生きていけない子どもやその保護者に対し、子どもらが必要としている助けを学校や教師が提供しなければいけない場です。しかし、これまでこのブログでも公表してきたように、埼玉県教育委員会や埼玉県立特別支援学校は、子どもやその保護者に対し、何かにつけ『人に助けを借りることばかり考えやがって』いるのです。
【参考】 障害児の親に“配慮”を要求する埼玉県教育委員会(第532号)
埼玉県教育委員会や埼玉県立特別支援学校は、法律に基づく必要な支援や合理的な配慮は全然しないのに、子どもやその保護者に対しては、法律に基づかない違法ともいえる『ご協力』を繰り返す。そういう土壌が教員をして『人に助けを借りることばかり考えやがって』を言わしめ、虐待をも日常化させるのでしょう。もはや学びの場ではなく、収容所のごとし。
三郷特別支援学校で公になった事実は、氷山のほんの一角に過ぎないとばかりに、ほかの埼玉県立特別支援学校でも日常的に繰り返されているという“内部告発”が私のところには複数寄せられています。うちの子が県立特別支援学校に入学したら、真っ先に“標的”となることでしょう。
笑いながら学校待機を要求した県立特別支援学校の教員や、恫喝や逆ギレを交えながら『ご協力』を繰り返した県教育局の職員らの顔を、私は忘れません。
(第543号)
【8/1追加情報】 三郷特別支援学校では本日付けで校長が異動しました。詳しくは8月1日付けのコメントをご参照下さい。
2013年4月で小学3年の年齢になる二男の就学に関する折衝について、私たち夫婦だけで続けていく限界を感じ行き詰まってしまったため、このたび、弁護士に委任しました。川越市教育委員会による就学相談は、本日(2012年6月15日)、ようやく始まりました。
ところで、私は2012年1月、「埼玉県教育委員会が障害児の親に求める“ご協力”」について、このブログで世間に向けて告発しました(→第500号参照)。こうした県教委による協力要請が任意なのか強制なのかを文書で尋ねていますが、本日現在、県教委は返事も回答もしていません。
にもかかわらず県教委は、第1回就学相談の前日である6月14日、私が2年以上にわたって応じられないと断り続けているのと同じ協力要請について、「どうぞ御対応をお願い申し上げます」と代理人弁護士に突きつけてきました。“ちからづくで捻じ伏せてやる”(→第510号参照)は、どうやら本気のようです。
「川島ひばりが丘特別支援学校へ登校にあたって」 (PDF:170.1KB)
※県特別支援教育課(担当:小池浩次主任指導主事)より送付されたもの
この文書を見ると、障害者側の学校側への「配慮事項」が色々書かれています。《学校がこういう配慮をしますから安心して学校に来て下さい》ではなく、《学校に来るなら親はこういう配慮を学校にして下さい》という文書です。
しかしながら、2011年に改正された障害者基本法では、「障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のもの…の除去…の実施について必要かつ合理的な配慮がされなければならない」と定めています(同法2条、4条2項)。
つまり法律では、学校側に障害者側への配慮が義務づけられているのであって、「必要かつ合理的な配慮」をしない学校側が障害者側に配慮を求めるのは、法律を無視するに等しい暴挙と言わざるを得ません。話があべこべなのです。ましてや、現に就労している親に対し、4週に1週の学校待機を“お願い”して就労を困難にさせるなどは、障害を理由とした権利利益の侵害であって違法性の度合いは極めて高いといえましょう。
そもそも、行政機関が法的根拠のない“お願い”を民間人に求め、民間人がそれを拒んでいるのに、3年に及んで同じ“お願い”を繰り返すのは事実上の強制にほかならず、法による適正な手続きを保障している憲法に違反します。埼玉県教育委員会の違法な公権力の行使によって、私たち夫婦が受ける精神的苦痛は受忍すべき限度を超え、さらに高まる一方です。
【関連記事】 埼玉県で行っている医療的ケアの概念?ナニソレ(第505号)
(第532号)
13/3/7追記 【続報】みたび、埼玉県立特別支援学校について報道(第585号)
東日本大震災が起こる直前の2011年3月はじめ、障害のある二男(当時6歳)について、県立特別支援学校への入学を断念し、就学猶予のうえ市立保育所で保育を受けることになった事実がテレビや新聞で報道されました(→第433号参照)。入学断念の一因となった問題については、“県「改善へ向け対応」”とも報道されたのですが、1年かけて事態は正反対に向かいました。これが異例だとして新聞2紙に再び取り上げられましたので、紹介します。
まずは、東京新聞から――。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/saitama/20120306/CK2012030602000054.html
川越の障害児 また就学猶予 異例2年連続
2012年3月6日東京新聞朝刊24面(埼玉中央版)
重度障害で鼻から挿入したチューブで栄養・水分補給が必要な川越市の七歳男児について、同市教育委員会は保護者の申請に基づき二年連続で就学義務猶予を決定し、男児は新年度も市立保育所で保育を受けることが決まった。学齢期の児童が二年連続で就学猶予となるのは異例。
父親の司法書士広田博志さん(40)によると、就学を勧められている県立特別支援学校ではチューブが外れた場合に再挿入を行わないため、両親のいずれかの学校待機を求められ「夫婦ともフルタイムで働いており、学校待機は無理」と就学猶予を申請したという。
県教育局では特別支援学校での医療的ケアのガイドラインで、鼻から管を通す「経鼻経管栄養」のチューブについて「再挿入は行わない」としている。広田さんは「特別支援学校には医師の指示で再挿入ができる看護師がいるのに、医療の素人の親を待機させて再挿入をさせようというのはおかしい」と批判。同局特別支援教育課は「ガイドラインについては検討を行ったが、再挿入を行わないことに変化はない。引き続き就学について相談を続けていきたい」としている。 (中里宏)
つぎに、埼玉新聞――。
http://www.saitama-np.co.jp/news03/07/03.html
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私たち夫婦は、埼玉県教育委員会(県教委)に対し、県立特別支援学校(県支援校)において、配置済みの看護師による経管栄養チューブの挿入実施を求めてきました。夫婦はフルタイムの共働き。二男の就学相談で、県支援校から、両親のどちらかが学校に終日待機するよう求められたのが要望のきっかけです。
それから2年間、県教委は、ひたすら「保護者のご協力」を繰り返すのみで、2012年度以降も看護師によるチューブ挿入を「実施すべきでない」と結論づけています。県教委は、その理由として、次の4項目を示しました(県教委が私に宛てた2011年11月30日付けの書簡より全文引用 ※写しはこちら)。
・重症心身障害児は、一人一人の障害の状態の差が大きく、栄養チューブの挿入の過誤や位置異常、姿勢の不適切などに起因する注入中のトラブル等を生じやすいこと。
・学校での医療的ケアとして栄養チューブの再挿入が一般的に安全に実施できるとは言い難いこと。
・栄養チューブの再挿入を伴う注入を安全に実施するためには、平常時の把握や主治医等との連携などを含めて特別な対応が必要となるが、各学校には医療的ケアを実施している児童生徒が多くおり、実施時間も重なっていること。
・学校全体の医療的ケアを安全に実施するための体制が必要であり、栄養チューブの再挿入などの特別な対応を規定に位置付けて、対応していくことは困難であること。
これらの検討は、県教委に置かれた「医療的ケア運営協議会」及び「医療的ケア運営協議会に係る作業部会」で、2011年に各2回行われたとされています(前掲書簡)。このうち、第1回目の運営協議会における議事録の一部を入手しましたので、抜粋して紹介します。
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私たち夫婦が仕事を続けながら、2012年4月で小学2年の年齢になる二男を県立特別支援学校に就学させるには、a)配置済みの看護師による医療的ケアの実施、b)放課後や夏休みなどの学童保育の整備、c)医療的ケアを要する児童はスクールバスに乗せない送迎方法の改善、という3つの課題(=3課題)の解消が最低限必要です。
埼玉県教育委員会は、3課題の解消に向けて、私たち夫婦に協力を求めること(=“ご協力”)の具体的内容とは、「話し合いを継続して進めさせていただきたい、また個別の課題の解決に向けて一緒に考えましょう」だと述べていました(2011年8月17日付け書簡)。※ここまでの経緯と詳細は、第467号「埼玉県教育委員会の言動におもうこと」をご覧下さい。
* * *
しかし、私と県教委が会ったのは2011年7月13日が最後。それから本日(※2012年1月6日)まで、話し合いの席は設けられていません。8月に願い出た2012年度の就学猶予の結論も出ないまま師走を迎るや、県教委から、3課題への対応をすべて保護者に求める書簡が送られてきました。県教委が求める“ご協力”の具体的内容(本音)の一部が明記されていますので、ここに全文を公表します。8月の書簡と比べてみてください。
2011年11月30日付け書簡 (pdf:139.1KB)
私たち夫婦は、就労維持のため、県教委に対し、県教委が求めている“ご協力”の要請には応じられないと何度も伝えてきました。それなのに、依然として同じ内容の協力要請を繰り返すということは、もはや「協力」ではなく、保護者に断る自由のない「強制」ではないのでしょうか。そこで、私は、県教委に、以下2項目のお尋ねをしました。
(1)11月30日付けの書簡に書かれていた様々な協力依頼事項のすべては、任意ですか、それとも強制(保護者の義務)ですか?
(2)上記(1)の答えが強制ではないという場合、11月30日付けの書簡に書かれていた様々な協力依頼事項のすべてに保護者が対応できないとしたら、保護者に協力依頼していた事項は、誰が誰の責任で措置するのか具体的に教えてください。
上記2項目のお尋ねをした手紙も、全文を公表しておきます。
2011年12月6日付け手紙 (pdf:103.7KB)
このお尋ねに対しても、本日現在、お答えいただいておりません。すぐに任意だと答えられないのですから、やはり事実上の強制なのでしょう。
東日本大震災の直前、学齢に達する障害児である二男が県立特別支援学校に行けず、就学猶予のうえ保育所で保育を受けることになったことがテレビや新聞で報道されました(→第433号参照)。以来、周囲が心配の声をかけて下さるなど、多くの人に見守って頂いていることを痛感し、感謝しています。今般、その問題について、本年度における1つの区切りが付きましたので、報告しておくことにします。
結論からいうと、8月22日付けで、2012年度の「就学義務猶予願出書」を川越市教育委員会に提出しました。この願い出は、「就学猶予の上保育所で保育するのが妥当」とする主治医の診断に基づく対応で、学校教育法施行規則34条により、同法18条所定の事由(病弱、発育不完全その他やむを得ない事由)に該当する子どもの保護者に義務づけられています。
以下、ここまでの事実経過から、現時点における『埼玉県教育委員会の言動におもうこと』を綴ってみたいと思います。(※以下、2,600字あまりの長文です)
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障害者施策の基本原則を定めた障害者基本法の改正案が2011年7月29日、参院本会議において全会一致で可決、成立しました。同法の改正は、06年に国連総会で採択された障害者権利条約(以下、条約)の批准に必要な国内法整備の第一歩、と位置づけられています。
しかし、成立した改正法は、各府省の意向(=抵抗)を受けて、10年6月の閣議決定「障害者制度改革の推進のための基本的な方向について」や、内閣府に設置された障がい者制度改革推進会議が同年12月に取りまとめた「障害者制度改革推進のための第二次意見」から大きく後退。現行基本法から前進しつつも、条約が示す国際標準には到底届かぬ内容に留まってしまいました。
端的に示すとすれば、障害者の権利保障について、条約では「他の者と平等に」と規定しているのに対し、本改正法では「可能な限り」と規定してしまったことです。
日本国憲法が障害者を含むすべての国民に保障している基本的人権は、「侵すことのできない永久の権利」であって、「可能な限り」において保障されるといったものではありません。今回各府省が示した、「現下の財政状況や人材養成の現状を踏まえた現実的な議論」の帰趨に左右されるような不安定で偏狭的なものでもありません。ましてや、障害者だけに「国民的な合意」を必要とすることなど絶対にあり得ません。障害の有無に関係なく、誰もが「他の者と平等に」享有している普遍的なものなのです。
条約では、「すべての障害者のあらゆる人権及び基本的自由を完全に実現することを確保し、及び促進すること」が締結国の義務とされています。そのために、「条約において認められる権利の実現のため、すべての適当な立法措置、行政措置その他の措置をとること」や、「条約と両立しないいかなる行為又は慣行も差し控え、かつ、公の当局及び機関がこの条約に従って行動すること」は、条約に署名した日本の国際公約でもあります(条約4条外務省仮訳、ウィーン条約法条約18条を参照)。
今後の課題は、本改正法に基づき内閣府に新設される「障害者政策委員会」に引き継がれます。基本法の再度の見直し、障害者自立支援法に代わる「障害者総合福祉法」や「障害者差別禁止法」(いずれも仮称)づくりなど、重要案件が山積もりです。
各府省が四の五の言っても、いずれはすべて、条約に沿った政策を実施していかなければなりません。今回のように各府省の“できない言い訳”を真に受けていたら、いつになっても条約批准は実現しません。各府省の官僚たちにはこの現実を受け止めてもらい、これ以上問題を先送りせず、条約に沿った国内環境を1日も早く整えていってほしいと希求しています。障害者とその家族は、命を削りながら、その実現を待っているのです。
【関連記事】 障害者施策における“合理的配慮”という視点(第417号)
(第462号)
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