紅葉の苗場山をあるく
「苗場山は越後第一の高山なり、魚沼郡にあり登り二里といふ。絶頂に天然の苗田あり、依て昔より山の名に呼なり。峻岳の巓に苗田ある事甚奇なり‥‥是絶頂は周一里といふ。莽々たる平蕪高低の所を不見、山の名によぶ苗場といふ所ここかしこにあり。」
――鈴木牧之著『北越雪譜』(岩波文庫版の二編巻之四、底本初出1841年)より引用
こんな特異な山頂風景が特徴の苗場山(標高2145m)。3年前に長野県側の小赤沢コースで登って以来、新潟県側の祓川コースでの登頂が宿題になっていましたところ、機会あって9月27日に歩いてきました。例年より早く進んだ紅葉が見事でした。写真28点とかなりの長編ですが、よろしければ続きをどうぞ――。
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祓川コースの事実上の基点はかぐらゲレンデの和田小屋前、標高1370mから
下ノ芝、中ノ芝、上ノ芝と美しい傾斜湿原を歩きながら高度を上げていく。
こんなのを見てしまったら、ここでもう引き返してもいいぐらい(笑)
登山開始から約3時間、神楽ケ峰(2030m)を乗っ越したあたりから、目指す苗場山本峰が突如視界に大きく現れる。しかし、雷清水の水場を通り、いったん120mを下ったのち登り返さなければならない。
下った先にて最後の難所・雲尾坂を前に苗場山を仰ぐ。貫禄のある山容だ。紅葉の花が咲いて美しい。
雲尾坂の途中で振り返る。正面が神楽ケ峰、来た道の眺めが素晴らしい。
そして、雲尾坂を登り詰めた先に、この景色が目に飛び込んでくる苗場登山感動の瞬間。
「のぼりゆきゆきて桟のようなる道にあたり、岩にとりつき竹の根を力草とし、一歩に一声を発しつつ気を張り汗をながし、千辛万苦しのぼりつくして馬の背といふ所にいたる。左右は千丈の谷なり、ふむ所僅に二三尺、一脚をあやまつ時は身を粉砕になすべし。おのおの忙怕あゆみて竟に絶頂にいたりつきぬ」 (前掲、北越雪譜より引用)‥‥多少大げさですが、だいたいは合っています。
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山頂からさらに片道約1時間をかけて山頂台地の西端・坪場(2036m)に向かう。木道脇には鳥甲山を背景にサラサドウダンツツジの見事な紅(くれない)。
辿り着いた坪場は、さながら天空の城ラピュタ。絶景なり。(尾瀬のアヤメ平より好きかも)
さて、坪場の景色を堪能したら、名残惜しいけど帰らないと。12時45分、坪場から下山開始です。途中、振り返りながら‥‥(赤倉山分岐付近)
山頂ヒュッテ近くまで一気に戻り、草もみじの美しい景色を見納めます。この道の先には秘湯・赤湯温泉「山口館」があります。苗場山の次なる課題としましょう♪
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14時、山頂台地に別れを告げ、途中の紅葉を愛でながら、登り4時間かけて歩いてきた道を引き返してゆきます。
花はほとんど終わってしまっていたけど、リンドウとヤマハハコはたくさん見掛けました。
そんなこんなで下りに3時間半もかかっちゃって、和田小屋到着は日没後。行動時間が11時間以上の長丁場、小赤沢コースに比べて長かったけど、紅葉に、眺望に、魅力てんこもりの1日でした。ビーナスベルトを見ながら駐車場まで最後の歩き、今日も無事の下山に感謝です。
同じ日、同じ時間、危機管理なんかもきっと私と同じでしょう、同じように山に登りながら、でも、同じようには帰ってこられなかった人たちがいます。御嶽山噴火‥‥。
快晴の青空、紅葉の見頃、土曜日のお昼時に、なぜ、どうして、の解なき黙想を繰り返し、いたたまれぬ気持ちが寄せては返す1週間でした。9月27日は忘れられない日となりましょう。山は美しい、けれども、それ以上に、山は、恐ろしい‥‥。いまはただただ安穏たらんと黙祷を捧げるしかできません。
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<余録> 下山後は湯沢に戻って湯元共同浴場「山の湯」へ (料金400円)
越後湯沢で唯一の硫黄泉。しかも、加水、加温、循環、消毒、一切ナシの完全源泉かけ流しで、その湯量たるやハンパではありません。お湯の鮮度や質の良さは一級品、湯沢のオンリーワンはナンバーワンと言えましょう。ここから川越までは関越道で約2時間の道のりです。
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*撮影2014年9月27日 *機材Canon PowerShot G1 X MarkII(余録を除く)
*新潟県湯沢町・長野県栄村(上信越高原国立公園)
【関連記事】 あこがれの苗場山へ(第469号)
以前の記事を読み返すとどれも短い、そして最近のは長い!良くない傾向だなあ‥(汗)
(第731号)
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コメント
紅葉も草紅葉もまさにベストタイミングといった感じですね。前回の平標で悪い「運」を放出しきったのがよかったのでしょうか。(^_^;)
私が同じコースを歩いたのは3年前の10月8日でしたが、少しピークを過ぎたところでした。それにしても、今秋の紅葉は早いようです。
文章の総量は全然長くないですし、縮小された写真をこの枚数なら、うちのように遅い回線でも全然負担なく見れます。せっかくの美しい光景ですから、出し惜しみ?しないで載せてくれるほうが楽しいと思います。
投稿: Suekichi | 2014年10月 5日 (日) 10時15分
Suekichiさん、先日の仙ノ倉&平標で苗場の山容を見せ付けられてしまったのと、直前の天気予報の好転から、今回の苗場登山は前日に急遽決まりました。山の紅葉が狙いでしたので、思い切って出掛けられて良かったです。
山の紅葉は仙ノ倉と苗場が初めてで、今回はそれに湿原の風景も重なって写真量が飛躍的に増えてしまいました。前後編と分けても良かったのですが、話の流れを区切りたくなかったために長くなりました。
このブログ、当初の念頭は文章ブログですが、最近ではすっかりフォトログ化していますね。でも、フォトログとしても中途半端だよなあ~。写真の少ない記事は出し惜しみではありません。素材の問題です。
投稿: 鉄まんアトム | 2014年10月 5日 (日) 16時45分
最近の山行記は、深田久弥の「日本百名山」とか「北八つ彷徨」とか引用されていて文学の香りが漂っていますが、今回もまた凄いマニアックなのを(私にとっては)ひっぱってきましたね~。そのうち「鉄まんアトムの50名山」でもご出版できそうですね。
怒涛の3蓮チャン、どれも長丁場のようでお疲れ様です。その分、楽しいことも多かったことでしょう。苗場山はテレビで見て、いいところだなぁと思っていました。ただ遠くて…、関越で片道2時間がうらやましいです。
投稿: youic | 2014年10月 8日 (水) 22時57分
youicさん、引用は私の場合キホン手抜き、文章を紡ぐに行き詰まったときのお助け舟です。虎の威を借る狐でございます。なお、今回の『北越雪譜』は、深田百名山でも引用されています。最近youicさんが行かれた山に行けたら、記事はもう『智恵子抄』を引用と決まっています。
苗場山は、尾瀬好きにはたまらない山です。山頂が尾瀬ヶ原ですからね(笑)、ぜひ一度、出掛けてみて下さい。私は今度は上で泊まってみたいです。
ところで、今回の苗場は前夜入りでした。金曜はふだん通り仕事し家に帰って夕食&風呂を済ませてから出発し、湯沢のホテルに23時チェックインです。深夜未明発の登山に比べて全然ラクでした。
週末の関越は渋滞が難点です。純粋に日帰りだと、場所によっては新幹線&タクシーが効率いいかもしれません。タクシーなら和田小屋まで直接車で入れます(往復でCT45分の節約になります)。
投稿: 鉄まんアトム | 2014年10月 9日 (木) 14時22分