« 一人一人のニーズに応じた支援ができない特別支援学校なんて | トップページ | 奥多摩川苔山に登る »

地域の小学校に重度障害児が通うこと

 二男の就学をめぐって埼玉県教育委員会と向き合った3年間で、私の視野は大きく広がりました。地域の小学校に重度障害児が通うことについて、特筆しておくべきを2点に絞って、前号同様、後に続く障害児及びその保護者のために一言書き留めておきたいと思います――。

  ★゜・。。・゜゜・。。・゜☆゜・。。・゜゜・。。・゜★゜・。。・゜゜・。。・゜☆゜・。。・゜゜・。。・゜

●その1 <国語算数…といった教科以外に「自立活動」があるなんて知らなかった…>

 学校での授業といえば、大多数の人が、国語、算数、音楽、図工…などを思い浮かべるでしょう。それに加えて「自立活動」を挙げられる人は少ないと思います。教員免許状を所持し、かつ、障害児の親である私自身も正直知りませんでした。
 だから、手話や点字を含む言語によるコミュニケーションが取れず、知的発達レベルも1歳に満たないような障害児が学校に通って、いったい何を学ぶんだろうかという根源的な疑問を抱いていました。しかし、学校での教育に「自立活動」という指導領域が詳細に定義づけられている事実を知って、この疑問は氷解しました。

 自立活動とは、個々の子どもが自立を目指し、障害による学習上又は生活上の困難を主体的に改善・克服するために必要な知識、技能、態度及び習慣を養うために、特別支援学校の教育課程において特別に設けられた指導領域です。そして、自立活動の指導は、特別支援学校だけでなく、小・中学校の特別支援学級や通級指導においても取り入れることができるとされています(学校教育法施行規則138条・140条参照)。
 文部科学省が定める小学校及び中学校の各学習指導要領解説によれば、「特別支援学校小学部・中学部学習指導要領を参考とし,例えば,障害による学習上又は生活上の困難の改善・克服を目的とした指導領域である「自立活動」の内容を取り入れる」として、小学校及び中学校においても、一人一人の実情に合った教育課程を柔軟に編成する必要性を説いています。

※参考 障害が重度で重複している児童の指導内容具体例 (クリックで拡大)Shidourei
 「特別支援学校学習指導要領解説・自立活動編」より引用。上の図や自立活動の詳細については、同書を文科省のHPよりダウンロードしてご参照下さい。

        *     *     *

●その2 <全国で数百人もの重度障害児が小学校に通っているなんて知らなかった…>

 重度の障害児が小学校に行くのは「極めて特殊な事例」「ニュース事例」だと認識していましたので、川越市教育委員会から二男の就学先として市立小学校を提案された際は非常に不安を覚えました。しかし、調べてみると、全国の小学校には多くの肢体不自由特別支援学級が設置されていて、重い障害のある子どもが実際に多数通っている事実を知って、この不安も氷解しました。

 文部科学省が所管する独立行政法人国立特別支援教育総合研究所が、2011年9月に、「全国小・中学校肢体不自由特別支援学級の指導に関する調査」と題する調査報告書を発表しています。
 これによると、2010年度において、肢体不自由特別支援学級を設置している公立小学校が全国に1886校もあります。このうち当該調査に回答した小学校は1054校にのぼり、その1054校に在籍している肢体不自由特別支援学級の子どもについて、
  (1) 「会話はほとんどできない」  257人/1621人(15.9%)
  (2) 「車いすで介助を受けて移動する」  409人/1640人(24.9%)
  (3) 食事について「全面的に介助が必要」  236人/1610人(14.7%)
  (4) 排泄について「全面的に介助が必要」  504人/1626人(31.0%)
との回答がなされています。二男と同じような状態にある子どもでも、すでに小学校に在籍している児童が相当数存在している事実です。
 文部科学省の2011年調査(下記注)でも、医療的ケアが必要な子ども670人が全国の小中学校に通っていることがわかっています。重度障害児が地域の小学校に通うことは、普通のことではないにせよ、けして特別なことでもないのです。

※注 小中学校における医療的ケアが必要な児童生徒数(文部科学省HPより引用)20110501_chart18
        *     *     *

 国はいま、障害のある子もない子も一緒に学ぶ「インクルーシブ教育」をすすめています。私自身の考えはまだ中立的ですけれども、特別支援学校から“一人一人のニーズに対応した指導や支援はできない”と言われたり、生活基盤を奪われるほどの学校待機を求められるのならば、特別支援学校だけを選択肢として考える必要はないのかもしれません。
 以上のとおり、小・中学校でも自立活動を取り入れた教育は受けられる(少なくとも、法制度上の仕組みは整っている)うえに、そうやって全国には実際に多数の障害児が地域の小中学校に通っているんですから。

  ★゜・。。・゜゜・。。・゜☆゜・。。・゜゜・。。・゜★゜・。。・゜゜・。。・゜☆゜・。。・゜゜・。。・゜

 以上、書き留めました。こちらも前号同様、些細な記録ですけれども、後に続く障害児及びその保護者にとって、役に立つ情報が少しでも含まれていれば幸いです。
 なお、学校を選ぶにあたって教育委員会から特別支援学校を強く勧められることがあるかもしれませんが、障害者基本法は、可能な限り保護者の意向を尊重しなければならないと定めています。念のため、書き添えておきます。

【関連記事】
一人一人のニーズに応じた支援ができない特別支援学校なんて(第595号)

(第596号)

|

« 一人一人のニーズに応じた支援ができない特別支援学校なんて | トップページ | 奥多摩川苔山に登る »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 一人一人のニーズに応じた支援ができない特別支援学校なんて | トップページ | 奥多摩川苔山に登る »