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上田清司埼玉県知事の“罪”

本件記事に関し上田知事から手紙が届きました。詳細は末尾をご参照下さい。)

 9月1日付け埼玉県広報紙「彩の国だより」第476号(毎月1回1日発行)が新聞に折り込まれていました。同紙には「知事コラム」という欄があって、上田清司知事が約800字程度の文章を毎回書いています。
 毎度読むたび首を傾げているのですが、今回は特に読み捨てるわけにはいかぬ内容でした。以下長文になりますけど、ぜひともお付き合い頂きたいと思います。

▼2010年9月1日発行「彩の国だより」の知事コラム(p2)を全文引用
100901_sainokunidayori476

 このコラムから事実の記載を削り上田知事の意見を抜き出すと、こうです。
1) 『上田県政の特色の一つに「事実を事実として、より客観的に把握しない限り、有効な政策や対策はできない」という姿勢があります。』
2) 『私に言わせると責任ある立場にある人は“事実を知らな過ぎるということは罪だ”と思います。』
3) 『今年も、市町村別の不登校生徒出現率の資料を各教育委員会に届けますが、ぜひ、教育委員会から市町村長や議会にも届けてほしいですね。』

 ここでは3)については省略し、1)2)について以下続けます。

 私は、これまで何度か、埼玉県立の特別支援学校(以下、県特支)における医療的ケア体制のお粗末ぶりを書いてきました。一部は朝日新聞にも投稿し、採用されています。

   ・150分の100分の2(第81号)
   ・行政がこしらえる障害者の障害(第333号)
   ・障害児の親縛る医療ケア体制(第338号) などなど

 障害者が抱える障害の程度が重くなるほど、社会や制度、そして各施設における支援は厚くあるべきは当然です。
 なのに県特支では、障害児の中でも医療的ケアを要するようなより程度が重い子どもほど学校で受けられる支援が薄くなり、反対に、親や家族が学校に特別な支援をしなければなりません。公助が必要な人に自助を強要している、これが県特支における「事実」です。
 具体例を端的に示すと、5つ。
a) 医療行為のできる看護師資格者を県特支に配置しながら、看護師資格者が携わる医療的ケアを厳しく制限し、できる限り親に処置をさせる。
b) a)の関門を乗り越え看護師資格者による医療的ケアの対象とされても、毎年ほぼ1学期のうちは親に処置をさせる。
c) a)b)の関門をも乗り越え2学期以降に医療的ケアが始まっても、4週のうち1週(毎月1回、月~金の5日間連続)は必ず親に処置をさせる。
d) 処置をする親は、毎日登校から下校まで必要に応じて、学校内の控室で待機をしていなければならない。
e) 以上を全部クリアしても、川越市を校区とする県特支には放課後学童保育がない。

 という事実から、県特支に収容されてしまうと親は、結局、仕事を続けていくことができなくなるのです。
 その先のことを関係者は決して口に出しませんが、仕事はあきらめる→収入が途絶える→当面は蓄えで食いつぶす→蓄えが底をつき困窮する→あとは生活保護で、ということのようです。そんな生活など真っ平ゴメン、私も妻も現に働いている、今後も働きたい、働きながら極力ふつうの社会生活を営みたいのです。

 県の最高責任者たる上田知事は、この事実を「事実として、より客観的に把握」した結果として、親の就業機会を奪ってまで親に負担を求めている県特支の運営が「有効な政策や対策」だというのでしょうか。それとも、ただ単に「事実を知らな過ぎる」だけなのでしょうか。
 どちらにしても県の施策によって、県が積極的に障害児の親の負担を加重し勤労の権利をも奪っているのは揺るがぬ事実なのですから、知事自身も述べているように、知事は“罪”深いといわざるを得ません。知事が、県立特別支援学校において為すべき支援が為されていない現状を放置しながら、県広報を利用して権限外である市町村立中学校の問題に口を挟み当事者を“罪人”扱いするなど、もってのほかです。

 偶然にも、同じ9月1日付けの朝日新聞埼玉地方版で、任期満了まであと1年を切った上田知事が、これまでの3年間を「85点」と自己採点した旨報じられていました。85点ということは合格で、5段階評価なら最高ランクに位置づけられてしまいます。とんでもないことです。働ける親を学校に“軟禁”している県の知事に及第点を与えることなど、私にはできません。

 私たち家族はいま、上田県政によって、半年先の見通しすら立たぬ生活を余儀なくされているのです。

(第378号)

10/09/11 追記】
 本記事のコメント欄に記したとおり、本記事を上田知事に送付しました。そうしたところ、知事本人から手紙が届きましたので下記にて公開しました。本記事と併せてご高覧下さい(当初ここに公開したものを移しました)。

 上田清司埼玉県知事から手紙が届く(第381号)

【以上、追記終了】

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コメント

 埼玉県の公式HPには「知事の部屋」があって、その一角で「知事への提言」を受け付けています。そこで、本記事のプリントに以下の文章を添えFAX送信しておきました。なお、提言は、知事がすべて目を通すのだそうです。
http://www.pref.saitama.lg.jp/site/teigen/
        *        *        *        *
 前略 9月1日付け彩の国だより掲載の「知事コラム」を拝見しました。
 私は、川越市在住で、肢体不自由の重度重複障害児を持つ父親です。子どもは来春学齢を迎え、先月、市の就学支援委員会が子の就学先として「県立の特別支援学校が相当である」という決定を下しました。
 しかし、県立の特別支援学校では、親が学校にて終日待機することを求めています。埼玉県は、県特別支援教育課が定める『埼玉県立特別支援学校医療的ケア体制整備事業実施要項』によって、県立特別支援学校における医療的ケア実施を極めて限定的な運用に留めているのです。これでは私か妻かが失業を余儀なくされるため、私は、子を県立特別支援学校へ就学させることは不可能だと考えています(なお、この改善方については、本年4月27日付け朝日新聞声欄に採用、掲載されています)。

 標記コラムにおいて上田清司知事は、「私に言わせると責任ある立場にある人は“事実を知らな過ぎるということは罪だ”と思います」と述べました。上田知事は、埼玉県政における最高責任者たる立場にある人物ですが、上記の特別支援学校における事実はご承知なのでしょうか。私には、上田知事が「事実を知らなすぎる」のではないかと思えてなりません。
 かかる疑問から、標記コラムについての拙稿を下記ブログにて発表しましたのでお知らせする次第です(本文は別紙2枚のとおりです)。

 「上田清司埼玉県知事の“罪”」
 http://hirotahiroshi.cocolog-nifty.com/blog/2010/09/post-bce2.html

 障害者の障害を理由に県が障害者の親に失業を余儀なくさせている運用は、障害者に対する差別にほかなりません。よって、引き続き、県にはかかる運用の改善を求める次第です。どうか上田知事にもお伝え下さいませ。草々

投稿: 広田博志 | 2010年9月 3日 (金) 17時03分

「お寄せいただいたご意見を今後の県政に役立てていきたい」などの汎用定型文言ではなく、一応、内容に対応した返事がきたのですね。
それにしても・・・・
本当に「難しいケア内容」なら、保護者でなく、看護師や医師等の専門家に協力を求めなければ対応できないはずですし、「緊急時」には、保護者を呼ぶ前に、救急車で搬送して救急救命士や医師の力に頼るのが最優先では?(その上で保護者にも連絡するのはもちろんですが。)
教育委員会が知事から説明を求められても、「保護者の学校待機」についてこんな破綻した理由しか返答できないことは、実は正当な理由がないことを自認しているようなものだと思います。

投稿: 末吉 | 2010年9月10日 (金) 17時15分

 末吉さん、コメントありがとうございます。
 埼玉県が定める特別支援学校における医療的ケアのガイドラインによれば、鼻腔チューブが抜けかけた場合の緊急対応は、(医療従事者である)看護師資格者が、(医療の素人である)管理職にまず判断の指示を仰ぐことになっています。

 さて、素人の管理職は、じっさい何を基準に判断を下しプロに指示を出すのでしょうか。県の責任ある立場の人たちには、このバカバカしさに気づき自問自答してもらいたいものです。

*参照
県のきまり こと 埼玉県立特別支援学校医療的ケア体制整備事業実施要項(第361号)

投稿: 鉄まんアトム | 2010年9月10日 (金) 18時50分

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