障がい者制度改革推進会議が第一次意見書まとめる
政府の「障がい者制度改革推進会議」が6月7日、14回にわたる会議を経て、障害者制度改革の方向性を示す第一次意見書を取りまとめました。
同意見書では、いま私たち家族が直面している「教育」の分野における「推進会議の問題認識」も示されました。一般にはまだ馴染みの薄い「インクルーシブ教育」にも触れられていますので、一部引用のうえ紹介しておくことにします(下線及び色づけは筆者による)。
【以下、引用始め】
Ⅲ 障害者制度改革の基本的方向と今後の進め方
4.個別分野における改革の基本的方向と今後の進め方
2)教育
障害者権利条約においては、あらゆる教育段階において、障害者にとってインクルーシブな教育制度を確保することが必要とされている。
障害の有無にかかわらず、それぞれの個性の差異と多様性が尊重され、それぞれの人格を認め合う共生社会の構築に向け、学校教育の果たす役割は大きい。人間の多様性を尊重しつつ、精神的・身体的な能力を可能な最大限度まで発達させ、自由な社会に効果的に参加するとの目的の下、障害者と障害のない者が差別を受けることなく、共に生活し、共に学ぶ教育(インクルーシブ教育)を実現することは、互いの多様性を認め合い、尊重する土壌を形成し、障害者のみならず、障害のない人にとっても生きる力を育むことにつながる。
(中略)
【地域における就学と合理的配慮の確保】
日本における障害者に対する公教育は、特別支援教育によることになっており、就学先や就学形態の決定に当たっては、制度上、保護者の意見聴取の義務はあるものの、本人・保護者の同意を必ずしも前提とせず、教育委員会が行う仕組みであり、本人・保護者にとってそれらの決定に当たって自らの希望や選択を法的に保障する仕組みが確保されていない。
また、特別支援学校は、本人が生活する地域にないことも多く、そのことが幼少の頃から地域社会における同年齢の子どもと育つ生活の機会を失わせたり、通常にはない負担や生活を本人・保護者に求めたり、地域の子どもたちから分離される要因ともなっている。
障害者が地域の学校に就学し、多大な負担(保護者の付き添いが求められたり、本人が授業やそれ以外の教育活動に参加しにくいまま放置される等)を求められることなく、その学校において適切な教育を受けることを保障するためには、教育内容・方法の工夫、学習評価の在り方の見直し、教員の加配、通訳・介助者等の配置、施設・設備の整備、拡大文字・点字等の用意等の必要な合理的配慮と支援が不可欠である。
【以上、引用終わり】
* * *
大阪府豊中市では、もう40年近くにわたって、インクルーシブ教育を実践しています。
市内のすべての子どもたちは、障害の有無にかかわらず、原則として地域の小中学校の通常学級に通います(もちろん、希望すれば特別支援学級や特別支援学校に就学できます)。障害を抱え医療的ケアの必要な子どもに対しては、保護者の付き添いを求めることなく、通常学級にて看護師による対応がなされています。すべての市立保育所・市立幼稚園には看護師が配置され、積極的に障害児を受け入れています。こうしたことが豊中では、すべて『あたりまえ』なのだそうです。
先日、機会があって、豊中市の関係者から直接話を聞くことができました。もちろん、いいことばかりではない、市の財政危機や教育の質の確保など厳しい現実の話もありました。ただ、障害者及びその家族は、現実に地域で生活している。カネがない、人手がないと言っても、とにかく知恵を絞り工夫しながらやっていくしかない。話を聞く中で、そうした当事者意識が豊中市政の基底に流れていると強く感じた次第です。
それにしても、どうして同じ国の中でこうも違うのか。地元における「排除」「孤立」そして「思考停止」の現実を思うと、話を聞きながら何度も涙が出てしまいました。
今回の意見書とりまとめで、私がいま埼玉県に求めていること(看護師の配置された特別支援学校で、保護者の付き添いなしの医療的ケアを実施すること)が、絵空事などではない、唐突異常な要求でもない、むしろ国の方向性とも一致していることがわかりました。
さらに言うと、国が批准をめざす障害者権利条約の前文では、「障害が…他の者と平等に社会に完全かつ効果的に参加することを妨げるものによって生ずる」ことを国が認め、「障害者及びその家族の構成員が、障害者の権利の完全かつ平等な享有に向けて家族が貢献することを可能とするために必要な保護及び支援を受けるべきである」と謳っています(文言は外務省仮訳による)。
再三の求めにもかかわらず、いまだ見せてもくれない埼玉県の「県のきまり」だの「ガイドライン」だのが、この条約の思想の対極にあって、改善すべきは当然なのです。
*関連記事
障害児の親縛る医療ケア体制(第338号)
行政がこしらえる障害者の障害(第333号)
*第二次意見書に関して…
障害者施策における“合理的配慮”という視点(第417号)
(第356号)
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本記事で紹介した「第一次意見書」に基づく基本方針が6月29日、閣議決定されました。毎日jp及び東京新聞TOKYO Webから記事を引用しておきます。
障害者制度:施策見直しの基本方針、閣議決定
http://mainichi.jp/life/health/fukushi/news/20100629k0000e010064000c.html
全閣僚で作る政府の「障がい者制度改革推進本部」(本部長・菅直人首相)が29日開かれ、障害者基本法改正や障害者自立支援法に代わる「障害者総合福祉法」(仮称)の制定を目指す障害者施策見直しの基本方針を閣議決定した。障害者を福祉の対象でなく権利の主体とする理念に基づき、障害の定義を転換。身体、知的、精神の個人の心身機能に注目した従来の「医学モデル」の定義を、社会参加を妨げる社会の側の問題からとらえ直し、制度の谷間を生まない仕組みを目指す。
障害者や家族中心の「障がい者制度改革推進会議」が検討し、本部にこの日提出した第一次意見書案に基づき、基本方針をまとめた。【野倉恵】
毎日新聞 2010年6月29日 12時16分
障害者制度改革で閣議決定 基本法改正案、11年に提出
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2010062901000192.html
政府は29日、障害者制度改革の基本方針を閣議決定した。障害者が健常者と同じ権利を有するとの規定を現行法より強く打ち出す障害者基本法改正案について、11年の通常国会に提出することを盛り込んだ。障害者権利条約の批准に向け差別の禁止を強調し、改革の工程を明示したのが特徴。
基本方針ではこのほか、廃止を決めている障害者自立支援法に代わる障害者総合福祉法案を12年に国会提出し、13年8月までの施行を目指すと明記。人権被害の救済を目的とした障害者差別禁止法案は、13年の国会提出を目指すとした。
精神障害者の「社会的入院」解消や障害児支援など、具体策については「11年内に結論を得るべく検討」との表現にとどまった。(共同)
東京新聞 2010年6月29日 09時30分
投稿: 鉄まんアトム | 2010年6月30日 (水) 11時22分