能登線追憶(12)
朝方に降り積もったボタ雪は、ほとんどが解けて消えていた。長く厳しい冬が終わろうとしている。能登線の、一番好きな場所に一番好きな列車が、まもなくやってくる。この場所に立ち何度その汽車を見送っただろう、その汽車に乗り何度この景色を眺めただろう、ファインダー越しに失われた風景を探し求めた。
待っているのは、急行「能登路」。かつて金沢と奥能登の果てを結び、能登半島を駆け抜けていた列車。その名に「さよなら」を冠し、在りし日の姿でもうすぐやってくる。その姿が見たくて、再び見たくて待った月日は約17年。希み求めた再会を能登線廃止がもたらすとは、因果か。
『神様、仏様、御先祖様。古(いにしえ)の汽車と会う夢は返上しますから、どうか能登線を残して下さい。』
そんな願いを取り纏める前に、かの汽笛が聞こえてきた。少年時代の心象がすうっと目の前に現れたのだが、刹那に去りぬ。……6日後、此処に鉄路を刻む汽車の姿もなくなった。
のと鉄道能登線波並駅付近を走り去る、蛸島行き臨時急行「さよなら能登路」
2005年3月26日撮影 CanonEOS55,Tamron28-200mm,RDP100
(第318号)
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