能登線追憶(11)
のと鉄道能登線波並-藤波間 2005年2月11日撮影
CanonEOS55,Tamron28-200mm,RDP100
立春を過ぎ、暦の上ではもう春だというが、2月の奥能登はまだ冬景色である。朝から雪が降っている。波並に着くと晴れて日が差してきたので、弧を描く線路や漁港を一望する高台に上がってみた。時を移さず空は、どこからともなく流れてくる雲に覆われ、再び雪がちらつき始めた。「弁当忘れても傘忘れるな」という当地の格言たる所以はこれだ。このときも、天気は目まぐるしく変わっていた。
定刻で通り過ぎていった汽車を見送り、集落の方へ引き返すことにする。遠ざかる汽車のレールを刻む音が、頬をさす冷たい海風に乗りまだ聞こえてくる。登ってからわずか15分ほどなのに、来るときの坂道にはうっすら雪が積もっている。油断していると足下をすくわれ一気に下まで滑り落ちそうで、怖い。
こうしていると雪解けの春が待ち遠しいけれど、能登線廃止の手ぐすねを引くようでもあり思いは複雑だ。厳しい冬を通り抜けてこの汽車が、波並の桜を見ることは、ない。
(第305号)
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