新潟県司法書士会にも政治資金規正法違反の疑義
先日、当ブログにて岩手県司法書士会に政治資金規正法違反の疑義あることを報じました(第272号)。全国各地の司法書士政治連盟や司法書士会で見つかっている同様の事実。今回は、新潟県を取り上げます。
1.新潟県司法書士会に関する情報の提供を受ける
当方宛てに寄せられた情報によれば、新潟県司法書士会(新潟県会)は、政治団体である日本司法書士政治連盟新潟会(日司政連新潟)に対し、毎年30万円ずつ金銭の提供をしているのだそうです。そこで、その情報を裏付けるため、新潟県選挙管理委員会から、日司政連新潟の政治資金収支報告書写しを取り寄せ確認してみることにしました。
2.日司政連新潟の収支報告書の記載から
送られてきた報告書(末尾参照)によると、少なくとも過去3年にわたって、たしかに日司政連新潟は、新潟県会から毎年30万円ずつの資金提供を受けていました。名目は「事業委嘱費」で、備考欄にはいずれも「登記識別情報制度についての調査、研究」と記載されています。
また、同報告書によると日司政連新潟は、同じ過去3年にわたって、人件費や備品・消耗品費を1円たりとも支出していません。調査研究には欠かせないはずの書籍を1冊も購入せず、最低限のメモに必要な紙やペンも買っていないのです。
3.新潟県会の収支決算書等の記載から
一方、新潟県会のホームページで公開されている平成20年度の収支決算書によれば、支出の部に「政治連盟新潟会への事業委嘱費」として30万円、収入の部に「日本司法書士政治連盟新潟会 事務受託費」として6万円がそれぞれ計上されています。両団体間で金銭の授受がなされている事実は、どうやら真実と見て間違いないようです。
ところが、新潟県会の平成20年度事業報告や翌21年度事業計画には本件事業委嘱に関する記述が全くありません。にもかかわらず、同21年度予算書には、またもや日司政連新潟への事業委嘱費30万円が計上されています(※なお、決算書等のPDFファイルは、新潟県司法書士会ホームページにて当初公開されていたものです)。
4.事業委嘱という衣を着た寄附
これは一体どういうことでしょうか。毎年30万円もの大金を投じて委嘱した「調査研究」について、累積で100万円以上にもなるのに一片の報告すらなされぬまま済むことなど常識では考えられません。また、登記の専門家集団を自負する司法書士会が、登記制度の根幹にかかわる登記識別情報制度に関する調査研究を、外部の、それも政治団体に丸投げすることなど不自然としかいいようもありません。
どうやら、「登記識別情報制度についての調査、研究」というのは『名ばかり』で、実際のところ事業委嘱を装った寄附だと理解するのがふつうの感覚ではないでしょうか。事業委嘱に実態がないとすれば、日司政連新潟は、報告書に虚偽記載をしていることになり政治資金規正法12条に違反します。また、新潟県会及び日司政連新潟の双方とも、政治団体以外の団体から政治団体への寄附を禁止する規正法21条にも違反することになります。
新潟県会と日司政連新潟の癒着関係は上記だけに留まりません。
5.事務所の一体化がもたらす問題点
日司政連新潟は、新潟県会と同一場所に事務所を置き、かつ電話番号も同一。報告書記載の事務担当者は新潟県会の事務局職員です。しかし、日司政連新潟の事務所費支出は年間20万円以下で人件費はゼロです。事務所の賃料が社会通念に照らし相場より安ければ、差額分は貸主からの寄附になるというのが総務省政治資金課の見解ですから、それに照らせばここでも規正法21条に違反していることになります。もちろん、事務職員労務の無償提供も寄附にあたります。
これらは、規正法の観点からのみならず、大阪や岩手の件でも指摘(下記参照)したように、思想及び良心の自由(憲法19条)の観点から強制加入団体は政治献金や政治団体への寄附を行うことができないとした南九州税理士会事件の最高裁判所判決(最三小判平成8年3月19日)に明らかに背く行為です。
行政書士会が政治団体に対する金員の寄附と同視しうる行為(実質的に金員の支出と同視できる行為も含む)をした場合、その行為は行政書士会の目的外の行為として違法・無効だと判断した大阪高等裁判所判決(大阪高判平成20年11月12日)にも明らかに違反しています。
新潟県の司法書士は、これらの問題をどのように考え対応するのでしょう。まずは、両者の事務所を直ちに別々にする必要があります。そして、事業委嘱に実態がないならば、日司政連新潟は受領した金員を返還しなければならないでしょうし、新潟県会も全額を回収する義務があるのではないでしょうか。対応に注目です。
6.事業委嘱に実態ありなら脱税の疑い
ところで、事業委嘱には実態があるという反論をされることがあるかもしれません。ただ、その場合、今度は、日司政連新潟に税務上の問題が持ち上がります。
国税庁のHPによれば、「他の者の委託に基づいて行う調査、研究、情報の収集及び提供」は収益事業の「請負業」に含むとされています(法人税法施行令5条1項10号、法人税法基本通達15−1−27参照)。仮に、日司政連新潟に事業委嘱の実態があり、毎年30万円が相場に応じた対価の支払いであったとしたら、法人税及び法人住民税の申告の問題がでてくるからです。しかし、日司政連新潟の「その他の経費」はゼロ。税金を支払っていません。
そう言えば、先月、司法書士の脱税に関するマスコミ報道がありました。このときに日本司法書士会連合会の細田長司会長は、じつに迅速な対応を見せ、「国民の権利を護る法律専門家である司法書士が犯罪・反社会的行為を行うことは言語道断」と指弾する通知を発しました(平成21年10月19日付け日司連発第1088号)。ならば、司法書士会における一連の規正法違反は、組織ぐるみという点において「言語道断」をはるかに超えた事態といえましょう。連合会は、いつまでこの状態を放置するつもりでしょうか。こちらの対応にも注目です。
ちなみに、新潟同様の事業委嘱事例は、大阪や和歌山においてもあるという情報の提供をいただいております。もっと驚く情報の提供もあります。追って、稿を改め取り上げることになるでしょう。この記事は“小括”にすぎません。
7.まとめ
これまで当ブログで指摘した大阪、岩手、そして新潟。しかし、この問題はこの3箇所だけの限定的な問題ではありません。その他の地域でも、司法書士会と政治団体の事務所が同居している実態を多数確認しています。最高裁判決、大阪高裁判決及び政治資金規正法は完全に無視されているのです。
全国の司法書士会は、直ちに同居する政治団体に事務所立ち退きを求め、不透明な金銭の授受もすべて中止すべきです。政治団体の構成員が『法律家』だというのなら、違法に収受した金銭の返還なども、きっと自発的になされるに違いありません。
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*資料・参考文献
・日本司法書士政治連盟新潟会の政治資金収支報告書写し(pdf)
平成18年分(355.7K) 平成19年分(295.8K) 平成20年分(333.2K)
・「政治資金ハンドブックQ&A」第五次改訂版、政治資金制度研究会編、ぎょうせい(2009-6)
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