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司法書士関連の政治団体による事務所無償使用問題

 きょう10月1日付けの新聞各紙は、前日に公表された2008(平成20)年分の政治資金収支報告書について報じていました。朝日新聞朝刊(東京本社版)の一面トップには、「首相の政治団体 格安入居 母所有ビル 相場との差未記載」との見出しで、鳩山首相関連政治団体の政治資金収支報告書についての問題を指摘する記事が掲載されました(アサヒコムの記事URLは末尾*1参照)。
 記事では、「事務所の賃料が社会通念に照らし相場より安ければ、差額分を貸主からの寄付相当分として、収支報告書に記載する必要がある」という総務省政治資金課の見解を紹介しながら、1)差額が寄附として記載されていないこと、2)年間推定600万円に上る差額は個人からの寄附の法定上限額(年間150万円)を超えること、などを指摘し、違法性を示唆しています。

 同様の問題は、司法書士関連の政治団体と司法書士会の間でも確認できます。
 具体例を1つあげると、大阪司法書士会のホームページに「関連団体」としてリンクされている大阪司法書士政治連盟(以下、「大阪司政連」といいます)という政治団体があって、大阪司政連は、大阪司法書士会館内に事務所を置いています(大阪司政連サイトによる)。
 しかし、本年9月30日付け大阪府公報に公開された政治資金収支報告書の要旨(URLは末尾*2参照)によると、大阪司政連の「経常経費」の項目には、通常記載される「事務所費」の記載が全くありません。
 当該報告書の記載が事実だとすれば、事務所(として使用するスペース)は無償で司法書士会から提供されていることになります。すると、賃料相当額分は、家主である大阪司法書士会からの寄附相当分として収支報告書への記載が必要です。ところが、大阪司政連の収入項目のうち「寄附」は全額が「個人分」とされ、「団体からの寄附」は全く記載されていません。
 寄附の「不記載」は、政治資金規正法25条2号により、「五年以下の禁錮又は百万円以下の罰金」の対象となります。もっとも、同法21条により、司法書士会など政治団体以外の団体から政治団体へ寄附すること自体がそもそも違法であり、同法26条により、寄附をした側も、受けた側も、「一年以下の禁錮又は五十万円以下の罰金」の対象です。“単純な記載漏れ”では済まされない、重大な問題なのです。

 以上見てきたことは、政治資金規正法の問題だけでなく、強制加入団体たる司法書士会における思想及び良心の自由を侵害する憲法上の人権問題でもあるのです(*3)。
 多くの司法書士や司法書士会は自ら“法律家”を名乗り喧伝しながら、一方で内部における違憲違法の疑いある同様の状態を放置し続けています。そして、この事態を重く受け止める司法書士の極めて少ないことが何よりも問題を致命的にしてしまっています。14回目の事務所開設記念日にこうした記事を書かねばならぬことは、じつに嘆かわしい限り、です。

(補注)
*1 http://www.asahi.com/politics/update/0930/TKY200909300384.html
*2 http://www.pref.osaka.jp/attach/1981/00033672/19-2a2.pdf(公報全体のp255)
*3 最高裁判所第三小法廷平成8年3月19日判決(南九州税理士会事件)

【本記事は、コメント欄及び下記関連記事にも重要な情報を含みます。併せてお読み下さい】
コメント欄から、大阪司政連の平成18~20年分収支報告書のダウンロードもできます。

日司政連の政治資金収支報告書に虚偽記載(第236号)
日本司法書士政治連盟に対する公開質問状(第259号)
公開質問に答えぬ日本司法書士政治連盟(第271号)

岩手県司法書士会に政治資金規正法違反の疑義(第272号)
新潟県司法書士会にも政治資金規正法違反の疑義(第276号)
東京司法書士会にも政治資金規正法違反の疑義(第283号)
京都司法書士会内に自民党支部の事務所を発見!(第277号)
山口県司法書士会内にも自民党支部の事務所を発見!(第281号)

(第258号)

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コメント

10月1日は「国民主権のもとに,国をあげて法を尊重し,法によって個人の基本的権利を擁護し,法によって社会秩序を確立する精神を高揚するため」昭和35年の閣議了解に基づき定められた「法の日」ですね。
 各地の司法書士会は、「法の日」週間にあわせて無料相談会などを実施しているようですが・・・
 これでは、紺屋の白袴と言われても仕方ありません。

投稿: 末吉 | 2009年10月 2日 (金) 17時21分

 本記事で指摘した事項以外にも、まだ問題がありました。
 大阪司法書士政治連盟の平成18~20年分政治資金収支報告書を取り寄せ確認したところ、大阪司政連は、次のとおり、大阪司法書士会から「業務受託費」として多額の資金提供を受けていることが判明しました。
  平成18年  89万円
  平成19年 165万円
  平成20年 170万円

 業務受託を装った寄附だとすれば、大阪会も大阪司政連も政治団体以外の団体から政治団体への寄附を禁止する政治資金規正法21条に違反することになります。
 仮に業務受託に実体があったとしても、その内容や対価の妥当性が問題になりますし、最高裁や大阪高裁の判決に鑑みて、そもそも強制加入団体が政治団体に事務を委託して金員を支出すること自体が問題だといわざるを得ません。

 本記事で取り上げたように、これに事務所の無償使用問題が加わるのですから悪質です。いずれ稿を改めて取り上げることになるでしょう。

(参考)大阪司政連の政治資金収支報告書写し
 平成18年分(1019.1K) 平成19年分(851.7K) 平成20年分(766.0K)

投稿: 鉄まんアトム | 2009年12月 7日 (月) 17時25分

ところで、大阪司法書士政治連盟の政治資金収支報告書では、「人件費」支出は各年とも「0円」ですね。同連盟には有給の職員はいないことになります。司法書士会が、事務職員もいない政治団体に、いったいどんな「業務」を委託しているのかという疑問が湧きます。

「業務受託」の実態は不明ですが、そもそも、委託された業務は、司法書士会の目的の範囲内かどうか(司法書士会自身が行えない「政治活動」の委託などは不可)という問題があり、仮に目的の範囲内の一般的な事務としても、交付された金額が、通常の事務委託取引の対価として適正な額を超える場合には、超過分は財産上の利益供与、すなわち寄附とみなされるという問題もあります。

公開情報だけでは断定はできませんが、臨時に事務処理要員が必要であれば、正規の労働者派遣事業者に委託すればよいところ、なぜ、わざわざ政治団体に「業務委託」するのか、違法または脱法の疑いを禁じ得ません。

一方、仮に、「業務受託」に収益事業としての実態があるなら、鉄まんアトムさんが新潟県司法書士会について書かれた記事(http://hirotahiroshi.cocolog-nifty.com/blog/2009/11/post-b5ba.html)でも指摘されているように、脱税の疑いが生じてしまいます。収益事業を営む法人格のない団体に課せられる大阪市の法人市民税の均等割額は5万円ですが、収支報告書の「事務所費」は0円で「その他の経費」も5万円未満ですから、法人市民税の申告はしていないものと推測されます。
なお、大阪司法書士政治連盟の年間経常経費は数万~十数万ですから、「業務受託」が実態のある収益事業であれば、非常に高収益を上げていることになりますね。

投稿: 司法書士 渡辺昭孝 | 2009年12月 7日 (月) 19時23分

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