能登線追憶(8)
のと鉄道能登線間島鉄橋(波並−藤波間) 2004年8月2日撮影
CanonEOS55,Tamron28-200mm,RDP100
夏休みから連想されるのは、いまでも決まって能登の情景だ。
群青の海、艶めく漆黒の屋根瓦、のどかに過ぎゆく汽車。そんな能登独特の風景を同時に見られる場所の一つが、能登線最大の鉄橋を臨むここ。運が良ければ、海の向こういっぱいに立山連峰がそびえる。
寄り添うよう民家が密集する谷間に、能登瓦で葺かれた屋根が不規則に並ぶ。まるで瓦が自ら光放つよう見える午後のいっとき、汽車が鉄橋を渡る数秒を狙う。
能登線が海に最も近づき、その魅力を一番に味わえる区間。矢波、波並、藤波、と波のつく名の駅がつづく。波並駅を出た下り列車は海沿いの段丘をかけ登り、ここ間島鉄橋でハイライトを迎える。車窓を眺める旅人とシャッターを切る僕の心が合わさる胸躍る場所だったが、いまはもう追憶でしかない。
瓦の放つ光が強すぎ写真の汽車はブレてしまった。撮り直しはできない。でも、追憶にあるこの情景は、ブレることなく僕の心に焼き付いている。
(第241号)
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コメント
この写真を見ていたら、子供の頃の記憶が浮かんできました。父の実家の新潟県北部へ帰省するときは、しばしば上野から特急「いなほ」に乗りました。渓谷を渡る上越線の鉄橋、長い長い清水トンネル、そしてどこまでも続く越後平野の水田、「緑の海」を走っていくような感覚・・・懐かしい夏休みの心象風景です。
投稿: 末吉 | 2009年7月21日 (火) 21時32分
末吉さん、こんにちは。
懐かしい心象風景が浮かぶきっかけになり、光栄です。あの頃の夏の上野駅の光景は、私も覚えています。北陸、上信越、東北方面への特急や急行がひしめき合い、ホームには自由席の長い行列。活気がありましたね。
私がよく乗ったのは、特急「白山」や急行「能登路」です。「白山」の車窓で、この写真とは反対の富山県側から能登半島が見えるとワクワクしたものです。
「白山」は1997年9月、「能登路」は2002年3月、それぞれ廃止されました。列車が走っていた路線の一部もなくなりました。自分が乗った列車に子どもも、という親子のリレーは断ち切られてしまいました。子どもには、能登線最後の夏に走った「リバイバル能登路」を見せることができただけでした。心象風景は、せめて追憶の彼方に留まっていてほしいものです。
投稿: 鉄まんアトム | 2009年7月22日 (水) 13時22分
はじめて投稿いたします。
YUTOMOと申します。いつも見せて頂いていました。実は私の両親は富山県出身で、子供の頃「白山」や「北陸」「能登」、または東海道まわりで「しらさぎ」「雷鳥」で高岡まで行っていました。本当にいつも楽しみにしていました・・・。
城端線も今では本数が減ってしまい心配です。
新幹線で便利になる一方ですが、心は満たされないですね。
これからもよろしくお願いいたします。
投稿: YUTOMO | 2009年7月24日 (金) 16時53分
YUTOMOさん、ようこそお越しくださいました。
こどもごころに、北陸は遠く感じましたね。じっさいに遠かったのです。夏に行くのは本当に楽しみで、何日も前から寝られなくなりました。夜行の「越前」などが旧型客車だった時代です。私も、東海道回りで行ったことがありまして、なぜか、米原駅での乗り換え風景だけを覚えています。
新幹線の金沢開業が近づいています。問題は、並行在来線のJRからの経営分離です。北陸本線だけでなく、七尾線、氷見線、そして城端線もその対象とのことです。七尾線は、『のと鉄道』への移管を検討しているようですが、収支見通しが厳しいのは目に見えています。その結果、いまの「のと鉄道」である和倉温泉以北の存続が危ぶまれていると聞き及びます。
新幹線は、碓氷峠の鉄道を葬り、信越本線や北陸本線を分断し、そのうえ支線までも消し去っていく。それで、途方もない借金が押しつけられる。身も心もズタズタです。
そもそも「のと鉄道」は、能登線穴水-蛸島間の経営母体でした。それが、七尾線の和倉温泉までの電化と引き替えに、和倉以北の経営を引き継がされました。その七尾線を維持するために“主人”であるはずの能登線が切り捨てられました。このうえ、和倉温泉以北もろとも切り捨てて残る『のと鉄道』とは何なのでしょう。
YUTOMOさんのブログ記事を拝見し、「三井住友銀行」が「わかしお銀行」に吸収合併されて消滅したのに、存続した「わかしお銀行」が『三井住友銀行』に商号変更して“三井住友”の名前だけは生き続けている、みたいな節操のなさを思い起こさずにはいられませんでした。
コメントなのに、大変長くなり恐縮です。またのお越しをお待ちしております。
p.s. 銀行の変遷については、司法書士は驚くほど詳しく把握しています。不動産登記における担保権の得喪等では、法人格の異動や原因年月日は申請すべき登記に重大な影響を及ぼすためです。
投稿: 鉄まんアトム | 2009年7月25日 (土) 11時55分
広田さん。
お世話になります。
本当に子供の頃、夏休みは楽しみでした。朝5時ころから母と緑の窓口に並んだ事を思い出します。
それでも「白山」「はくたか」はなかなか取れなかったです。私が乗っていたのも「越前」「能登」は旧型車両でした。10年程前、法事で富山へ行く時、「能登」が489系で驚きました。
北陸新幹線開業後、在来線は10年後80%、30年後60%の利用率と最近記事が出ていましたね。
本当に碓氷峠のような寂しい事にはなってもらいたくないです・・・。
三井住友、わかしお問題の頃は、自己資本のためなら銀行界、なんでもありって感じでしたね。
これからもよろしくお願いします。
投稿: YUTOMO | 2009年7月26日 (日) 22時00分
YUTOMOさん、こんにちは。
懐かしい列車名が出てきて、“鉄分補給”に出かけたくなってきました
富山は(福井も)、鉄道を維持しようという意識がありますね。そういう民意は行政を動かします。富山のライトレール然り、高岡の万葉線もまた然り。
一方の石川は、というとご覧のとおりです。金沢のLRT構想だって、必要とされているはずなのに一向に進みません。七尾線までもがなくなってしまう心配は、杞憂に終わってほしいものです。
投稿: 鉄まんアトム | 2009年7月27日 (月) 14時22分