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名残惜しい九州ブルトレだけど

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東京駅10番線ホームでの機関車を連結する風景 2009年2月5日17時44分撮影

 東京駅でみるこの光景も、あと5日。
 13日発をもって廃止される寝台特急「富士・はやぶさ」を一目見ようと、東京駅に人波が押し寄せているという記事が、先週5日の朝日新聞夕刊()に掲載されました。記事に触発され、またもや感傷モードに切り替わりつつあります。

 しかし、記事の内容については、情に流されず、しっかりと指摘すべきことがあります。

 まず、記事のあちこちにある「引退」という表現が気に入りません。
 引退という言葉には、自らの意思でこれまでのあることから退き、あらたな出発をするという意味を含んだ表現であるように思えます。「富士・はやぶさ」は、そのようにして消えていくのではありません。しかも、使用している客車はすべて廃車解体されることも決まっています。13日発の列車が目的地に着いたら、もう二度と乗ることも見ることもできなくなる“永遠の別れ”なのです。
 だから、やはりここで使うべき言葉は「廃止」なのであって、「引退」はあてはまりません。

 つぎに、ブルトレが「新幹線や飛行機に押され、JR化後は急速に減った」という記事が事実に反すること。
 1987年の国鉄分割民営化の翌年、これまでの常識を打ち破る豪華編成の「北斗星」が、上野-札幌間に3往復設定されます。大阪-青森間を結ぶ「日本海」のうち1往復が函館に延長されたのもこの年です。その翌年の1989年には、「北斗星」で好評だった1人用B寝台個室“ソロ”が、「富士」「はやぶさ」「北陸」にも投入。いまなお人気の衰えない「トワイライトエクスプレス」(大阪-札幌間)の登場も89年です。
 90年代に入ると、寝台の個室化がいっそう進みます。JRに移行してから5年たった92年3月の時点で、国鉄時代にあったブルートレインは1本も欠けることなく、むしろ国鉄時代より充実発展した状態で走り続けています。JR創生期は、まさにブルトレ復権の時代だったのです。
 しかし、この頃から歯車が狂い始めます。「みずほ」や「出雲」に連結されていた食堂車が91年に営業を休止、これがあっという間に九州ブルトレ全列車に波及。食堂車という列車ゆえの旅の楽しみを奪われては、利用客がさらに減る悪循環に陥るのは当然といえます。そうしてブルトレが急速に減るのは93年12月以降。年を追うごとに、列車自体の廃止が相次いでいきます。
 なので、こういう経緯を全部省略して「JR化後は急速に減った」という記事は、あまりにも短絡に過ぎます。しかも、減った要因が「新幹線や飛行機に押され」たのではなく、バブル崩壊による景気後退のなかでのJRの自滅というのが、事情を知るものとしての実感であり、過去の事実です。

 それから、最後に、「インターネットのオークションでは、9450円のB寝台(乗車券除く)が5万円以上に跳ね上がっている」という一文。
 記事はこの一文だけなので、この事実で何を伝えたいのかがよくわかりません。
 列車の廃止が迫るなか、いろいろな人がそれぞれの思いで列車に乗ろうと思っていたはずです。しかし、全席指定の列車の場合、乗れる乗客の数には限りがあります。JR列車の前売りは、原則として全国のみどりの窓口において1カ月前の午前10時。以前にもこのブログで書きましたけど、「富士・はやぶさ」の寝台券は今年に入ってから発売と同時に売り切れる状況が続いていました。
 そのようななかで、ネットオークションには「富士・はやぶさ」の寝台券が多数出品され、記事にあるような高額での落札も見受けられています。出品者のコメントとして、「所用のため乗れなくなったので」というコメントが掲げられてはいるものの、同一人物が繰り返し出品しているケースもありました。
 JRの指定券等の場合、列車の発車時刻まで払い戻しが可能です。所用で乗れなくなったのなら、駅で払い戻しをすればいいだけではないのでしょうか。そうすれば、他に乗りたい誰かが同じ条件と同じ料金で購入することができるのですから。費用だって、オークションの手数料に比べたら駅での払い戻しの方が安いのです。本当に乗りたい人が正規の料金で乗れなくなったり、乗る機会を奪われたりするわけですから、転売目的でのきっぷ購入はやめてもらいたいものです。
 すでにご存じの方も多いでしょうけど、コンサートのチケットや列車の指定券等を転売目的で購入することは、マナーの問題以前の違法行為です。是非論はさておき、多くの自治体で制定されている迷惑防止条例で、いわゆる「ダフ屋行為」として処罰対象とされています。ダフ屋行為は、チケット等を売ったときに当該犯罪が成立するのではなく、転売目的で買ったときに成立するというところがポイントです。
 「9450円のB寝台が5万円以上に跳ね上がっている」だけではなく、新聞が記事で触れるのなら、そうなっていることの問題と違法性にも踏み込んでほしかったと思います。ダフ屋行為がネットオークションで横行しているいま、新聞がこれを追認したようにも見えて、及ぼす影響が大きいと私は思います。

 「ブルトレ、行かないで」という見出しには、ぐっと来るものがありました。けれど、用語の定義や前提が事実と異なる記事には疑問を感じてしまいました。土台を踏み外しては、せっかくの記事も台無しです。

(※)2009年3月5日付け朝日新聞東京本社版夕刊13面
   新聞とは若干異なりますが、参考までにasahi.comのリンクを示します。
   http://www.asahi.com/travel/rail/news/TKY200903050176.html

●関連記事
東京駅からブルートレインが消え去る日(第145号)
その他の「富士・はやぶさ」関連記事のリンクは、そちらに掲載しています。

(第179号)

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