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よみがえる能登線憧景

P1020856 一冊の小さな写真集がここにあります。
 その名は、湯浅啓写真集「能登線憧景」。
 金沢市在住のフリーカメラマン・湯浅啓(ゆあさあきら)さんが、2005年3月に廃止されたのと鉄道能登線(穴水-蛸島間61キロ)の最後の一年と、廃線後から08年夏までを追った写真59点を収め、昨年10月、自費出版したものです。私は、近ごろ偶然、この写真集が上梓されたことを知り、金沢にある発行元「龜鳴屋」より買い求めました。
 切符をあしらったシンプルながら上品な表紙をめくると、見開きの左に写真、右には撮影日や撮影場所とともに作者の思いがわずかに添えられています。その場に居合わせこの目で同じ風景を見ながら、私の写真表現では手が届かなかった“能登線憧景”がここにあります。

 私には写真のセンスもなく、機材にも乏しく、何より能登まで片道600キロという距離。それでも、能登線最後の一年、その姿を遺しておきたい一心で延べ30日間も能登で過ごし、取り憑かれたようシャッターを切り続けました。少なくとも私の中で能登線は、ほかの鉄道に対するまなざしとは明らかに異なる、それに関わるヒト・モノ・コトをすべて包含して成り立っている能登の風景の一部として存在していました。
 その風景を見事な作品として遺された湯浅さんは、能登線がなくなった日、能登線最後の一年を収めた写真集「能登線日和」を出版されています。それと同様、今回の「能登線憧景」も、能登線を通して沿線で暮らす人々の日常が、優しい視線で作為なく写し撮られています。収められている写真の4分の1は、「能登線日和」には収められなかった最後の2カ月の情景です。私の中に存在するおもいでにあって、しかし失ってしまったその景色を、ずっと目に見える鮮やかなものとして記銘する写真の数々。いつまでも忘れえぬ“能登線憧景”がここにあります。

 能登線はもう、一部を残してレールは剥がされ、路盤も切り崩されてしまいました。時の流れとともに、その痕跡は消えていってしまいますが、いまも私の記憶の中で“能登線憧景”は広がっています。「能登線日和」「能登線憧景」は、より多くの人々に同じ情景を伝えていくことでしょう。
 願わくば、このような珠玉の写真集を世に遺して下さった湯浅さんの写真展なども拝見し、私の心の中の“能登線憧景”をいっそう豊かなものにしてくれた湯浅さんご本人に直接会って、「ありがとう」の一言を申し上げたい。その念に満ちながら、写真集の一葉一葉を大切に何度も繰り返し見入っています。現実にはなくなってしまった“能登線憧景”は、そうして、時を止めここにあり続けます。

 最後に、その「能登線憧景」のあとがきから一部を引用して、筆を置きます。

タイトルの「能登線憧景」の憧景は私の造語です。能登線は、私の憧れの情景の中を走るローカル線でした。それで、憧憬と情景のそれぞれの各字を組み合わせてタイトルにしました。「しょうけい」は、「小景」であり「小径」でもあります。いずれも、能登線を撮影しながら感じた言葉です。
能登の、そして能登線の、単なる風景ではない「情景」を、この本を通じて感じていただければ、幸いです。

(第157号)

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