宮脇俊三と鉄道紀行展
世田谷文学館で開催されている「没後5年 宮脇俊三と鉄道紀行展」を見てきました。鉄道紀行作家・宮脇俊三(1926~2003)の業績を回顧する初の展覧会,ということで,長女宮脇灯子氏が監修した展覧会です。
展覧会では,多くの著作の自筆原稿,無数の取材ノートをはじめとして,初公開となる多数の資料が展示されていました。「時刻表2万キロ」全線完乗地図や,広尾発枕崎ゆき「最長片道切符」の原本も展示され,途中下車印の押された実際のきっぷの券面を初めて目にすることができました(ちょっと感激)。
中でも目を引いたのは,やはり肉筆の原稿類です。ていねいな筆致で原稿用紙のマスの中に几帳面に埋められた文字。印刷原稿に対しては,文字の大きさ,書体,改行位置,空白の取り方の指定はもちろん,挿図の線の太さ,色合いの指定に至るまで事細かくなされている指示。未開業路線の想像の時刻表は,方眼紙に細かい数字の一つまですべて手書きされ,市販の時刻表と見紛うものです。編集者であった宮脇は,著作に挿入する路線図や時刻表などを自作していましたが,もちろんパソコンのない時代で,何から何まですべて手書きです。自身の信条でもあった推敲の過程を示す原稿もあって,どれもじっくり見入ってしまいます。
なんというか,とにかく全力投球の仕事。自分自身に対する妥協を許さない姿勢が伝わってきます。プロの仕事はかくあるべき,を実感しました。宮脇の作品が時を経ても色あせず,いまなお多くの人を魅了して止まないのは,こうした作り手の立ち居振る舞いが凝縮されているからなのでしょうか。心血注いで紡がれた文章を,いままで以上に大事に読み返していこうという心境になりました。
ファンには必見の展覧会です。9月15日まで,残りわずかです。
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写真は,JRの乗車券を模した入場券と展覧会のパンフレットです。パンフはA4横で短辺側で2つ折りになっています。開くと,なんと「時刻表2万キロ」全線完乗地図。ここまでくると,企画した人は”好きなヒト”に違いありません。
売店では,悲しいかなカエルが目についてしまいました。東急旧5000系,通称青ガエルのストラップ。だからカエル登場なんでしょうけど,知らない人にはこのストラップとカエルの因果関係は不明のままだと思います。
(第95号)
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コメント
wikiによれば、宮脇俊三氏は川越生まれなんだそうですよ。父親は帝国議会で陸軍の説明員に「黙れ!」と怒鳴られた衆議院議員宮脇長吉とのことです。陸軍出身なのに反軍議員という興味深い人物です。父親が陸軍を退役するまでは川越で生活していた模様なので、ぜひ氏が生まれ育った川越でも見る機会があればと思います。
投稿: 市内在住者 | 2008年9月 8日 (月) 20時38分
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【以下は、鉄まんアトムによる補注】
市内在住者さんからの上記コメントは、「宮脇展を出生地である川越でも」というのが全体の趣旨であろうと理解して公開することにしました。
しかし、そのまま補足なしに公開することは、宮脇ファンからお叱りを受けること必定です。
といいますのは、宮脇俊三は川越生まれですが、育ちは渋谷です。そのことは、氏の著作に明記されています。また、父長吉のことについても、市内在住者さんの上記コメント記述だけでは違和感があります。
詳しくは、「旅は自由席」(1991年、新潮社)に収録されている「ふるさと川越」(「宮脇俊三鉄道紀行全集第6巻」に所収)、氏の代表作の一つでもある「時刻表昭和史」(1997年、角川書店)などに書かれていますので説明は省きます。ぜひ原典をご参照下さい。
ところで、宮脇俊三の「川越生まれ」は、宮脇ファンなら”常識”かもしれません。著書の著者紹介に記載がありますから。そんな宮脇ファンなら誰でも知っているようなことを、「wikiによれば~」としたり顔が目に浮かぶような軽い調子でコメントをされると、それを公開して見た人から不愉快に思われるのはこの私です。
市内在住者さんにおかれましては、私が実名を出してブログを公開していることに鑑みて、コメントを下さる際には格別の配慮を頂きたくお願い申し上げる次第です。
【鉄まんアトムによる補注おわり】
投稿: 市内在住者 | 2008年9月 8日 (月) 20時38分