リーガルマインド
法律を学び始めると、必ずリーガルマインドという言葉に出会います。しかし、その言葉を深く検討することもなく、「法律的なものの考え方」という理解で流してしまっているのが、多くの法律学習者であり法律実務家ではないでしょうか。
要件事実論・事実認定論で多数の著書や論文のある伊藤滋夫氏は、民事の法律問題に関係した限度、という前置きをして、「私は、『リーガルマインドとは、民事に関する紛争を法的な見地から、適正迅速に解決することができる思考力をいうものであり、それはすなわち、正しい法的思考力である。』と考えています」「法的思考方法とは、『民事に関する紛争を法的な見地から、適正迅速に解決することができるための考え方』と言っていいでしょう。法的思考力と法的思考方法との関係は、『法的思考力を有していれば具体的問題を解決するに当たり正しい法的思考方法を発見することができるし、正しい法的思考方法を用いて具体的問題を解決するように努めることによって法的思考力をより高めることができる』ということになりましょう」(要件事実・事実認定入門p180、有斐閣、2003年)と述べています。
少し長くなりますが、もう少し引用を続けます。
「民事に関する紛争は、何よりも当該具体的事案にとって妥当な解決をすることが必要ですが、同時に、その解決が、恣意的なものではなく、他の類似の事案や異なった事案に対しても適切に対応できるような一般的に安定した考え方に基づくものであることが必要です。これをさらに具体的に言えば、法的見地からの紛争解決ですから、まず当該紛争がどのような意味で法的に争いがあるのか、そのもっとも根本的な所を発見することが必要です。それが具体的紛争の本質を的確に把握するということです。そして、法的見地からそれを解決するわけですから、それに適用又は類推適用できる法規範を発見することが必要です。そのためには、多くの法規範の中から、当該紛争と本質的に同様の紛争を解決するために定められた法規範を発見することが必要です。具体的紛争の本質と法規範の本質とを比較して、その両者が同一又は類似しているとなれば、当該法規範を当該紛争に適用又は類推適用することができるし、そうでなければ、その法規範による解決はできず、他の方法を考えなければならないということになるわけです。簡単に言えば、以上のプロセスでは、物事の本質を見抜く力が必要だということになります。
では、物事の本質を見抜くためにはどうすればよいかということになりますが、ある物事の本質とは、その物事のために必要でかつ十分な最小限のことを言うわけでしょうから、そうしたことが分かるようになればよいわけです。要件事実論は、後に詳しく説明しますように、当事者がある法的効果を主張するためには、何が本質的に必要かということを考える理論と言ってもよいのですから、要件事実論を学ぶことが法的思考力や法的思考方法の習得のために役立つことは、原理的に明らかなことであると言えます。」(以上、引用終わり)
私は、5年前にこの本を読んで、いっそう要件事実論・事実認定論の重要性を再認識しました。この本は、それから何度も読み返すようにしています。このように要件事実論を理解していくと、要件事実論は何も訴訟に限定した事柄ではなく、日常のあらゆる場面にも生かせるように思えます。
翻って埼玉司法書士会の会則改正をめぐって起こっている紛争を考えてみますと、執行部や執行部を支持する方々の主張にリーガルマインドのプロセスを経ていないことが原因となって、混乱が生じ拡大しているように見受けられます。
具体的に言いますと、先だって紹介した名誉会長、相談役らの文書(当ブログ5月21日付け「名ばかり」参照)がその典型で、彼らの立場を考えると゛極み゛と言ってもいいでしょう。解任議案が可決されると会が混乱する、ということについて言えば、解任の可否を判断するべき前提事実とは法的に関係のないことが分かりますし、そもそもそうなったときに会が混乱するのかどうかすら疑問があります。決議が有効か無効かの議論に、司法書士制度の将来のことや執行部が懸命に会務運営をしていることも法的には関係がありません。ましてや、紛争の法的解決をするのに、「失礼な話」の一言で片付けられるわけもありません。
さらに入ってくる雑音として、不動産登記法違反で会員が逮捕された事件を引き合いに出す方、先輩や目上の人を敬わない(と決めつけたうえで)のがけしからぬと独自の道徳観を押しつけようとする方、会長の親族のご不幸まで持ち出して感情に働きかける方までいます。
本当に司法書士は、民事に関する紛争を”法的に”処理する能力を持った資格なのか、目も耳も疑いたくなることばかりです。
前掲書には、冒頭で引用した部分のあとに要件事実論・事実認定論の特徴が書かれています。その小見出しを順番に拾い上げるだけでも十分な示唆があります。1)訴訟物との関係を考える、2)要件事実とそれ以外の事実との仕分け、3)具体的事実とその機能を考える、4)論理的に緻密に考える、5)段階付けて考え、その際原則・例外の考え方を重視する、ということです。この過程を経た思考には、大きく間違うところがないように感じています。
同書のはしがきには、司法書士を読者層の一つに挙げ、上梓にあたって司法書士三氏の世話になったことまで書かれています。司法書士に対する期待半分、訴訟に関わるのならこのことだけは確と肝に銘じよ、ということなのかもしれません。
そんな同書を読んで理解が進めば、少なくとも、「手元不如意の抗弁」のようなことをして゛したり顔゛などせずに済むだろうに、と遠くを見て思う今日この頃です。
*参考文献
「要件事実・事実認定入門」~裁判官の判断の仕方を考える
伊藤滋夫著、有斐閣、2003年11月10日初版
(第72号)
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