「最長片道切符の旅」取材ノート
今日4月22日、「『最長片道切符の旅』取材ノート」が新潮社から刊行されました。
同時に、”宮脇俊三と旅する”と題する特集を組んだ「小説新潮」5月号も発売されました。
自由は、あり過ぎると扱いに困る。
この書き出しで始まる「最長片道切符の旅」は、宮脇が27年間勤めた中央公論社を退社した直後の1978年10月13日から計34日間、広尾駅(北海道広尾線、廃線廃駅)から枕崎駅(鹿児島県指宿枕崎線)まで、同じ駅を二度通らないで可能な限り長くする片道切符(いわゆる”ひと筆書き”)での旅を綴ったノンフィクション作品です(新潮社、1979年)。
その旅の距離、1万3319.4キロ。当時の国鉄全旅客営業キロ(21011.7km)の3分の2、それは地球の直径に及ぶものです。デビュー作「時刻表2万キロ」と並んで、宮脇を代表する作品の一つでもあります。
「メモを見て思い出すようなことは書くに値しない」と語っていた宮脇でしたが、2003年の没後、自宅書斎からメモ帳100冊が見つかり、うち「最長片道切符の旅」の”取材ノート”が11冊も含まれていたことが明らかになりました。
それを完全収録したのが、きょう発刊された「『最長片道切符の旅』取材ノート」です。29年を経て、名作「最長片道切符の旅」のネタ帳が公開されたわけです。宮脇ファンとしては久々に、宮脇の”新作”が読める、もちろん発売当日に買い求めました。
宮脇の魅力は、鉄道を中心とした紀行作品というだけでなく、正確無比なる客観的事実の描写、徹底した推敲によって紡がれた文章にあります。初期の作品にはその傾向が顕著で、文学的にも高く評価されています。
また、いまは廃止された路線や航路が舞台になっているものも数多く、史料としての歴史的価値を併せ持つものです。その「最長片道切符の旅」も今日、同時に復刊されました。新潮社も商売が上手ですね。(写真中央。ちなみに、これは私が持っている初版本です)
”取材ノート”に収録されている「最長片道切符の旅」の出発地に向かう前日(10月12日)の日記の一部。
札幌ジンギスカン飲み放題 2、000-
退職金を高いとは思わない。国鉄運賃を高いとは思わない。私は高いとは
思わない人間だ。(少々ノンデル)
女房は1/3で不動産にした。1/3は新会社用。残りの1/3は減りつつある。
給与所得者から自営業者へ転身した頃、さぞかし懐に気を揉んだのでしょう。よくわかります。「いい齢をした男が児戯に類した目的を持っている」と自己を冷静に評価する宮脇独特のユーモアは、原作の原作である”ノート”にどれほど詰まっているのでしょうか。
”取材ノート”を読みながら、「最長片道切符の旅」を読む。
「最長片道切符の旅」を読んで、”取材ノート”をまた読む。
しばらく寝不足の日々が続きそうです。
(第61号)
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コメント
読売新聞YOMIURI ONLINEに、本書の記事があります。
「鉄道作家・宮脇俊三、34日間1万km強の取材ノート発見」(2008年4月22日03時01分)
http://www.yomiuri.co.jp/national/culture/news/20080422-OYT1T00089.htm
投稿: 鉄まんアトム | 2008年4月24日 (木) 18時10分