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相続関係説明図について一考

 2005(平成17)年に改正された不動産登記法では,権利に関する登記の申請をする場合には,原則としてすべて,登記原因を証する情報(以下,登記原因証明情報)を提供しなければならないこととされました(*1)。
 相続を原因とする権利の移転の登記申請(以下,相続登記)の場合,「相続その他の一般承継があったことを証する市町村長,登記官その他の公務員が職務上作成した情報(公務員が職務上作成した情報がない場合にあっては,これに代わるべき情報)」(以下,相続証明情報)を提供しなければなりません(*2)。
 そして相続証明情報とは,具体的には,1)被相続人の10歳頃以後から死亡に至るまでのすべての戸籍,除籍又は原戸籍謄本,2)相続人の戸籍謄本又は抄本,のことを指し,3)遺産分割がある場合には,遺産分割協議書及び印鑑証明書,4)相続放棄がある場合には,相続放棄申述受理証明書,なども提供しなければなりません。なお,この取扱いは,旧法の「相続ヲ証スル…書面」(*3)に基づく実務と実質上変わりはありません。
 ところで,登記申請に添付する証明書類の一部は,原本と写し(コピー)を提出して原本を返してもらう(以下,原本還付)ことができます(*4)。
 相続登記の場合,戸籍などを直接コピーするのではなく,『相続関係説明図』という一覧表を作成添付して,戸籍などは原本還付してもらうことが一般的です。

 旧法の登記実務では,この相続関係説明図を作成添付すれば,上記1)~4)はもちろん,住民票など「住所を証する書面」の原本還付も可能でした(*5)。そのことを反映して,相続関係説明図には被相続人及び相続人の氏名,住所及び生年月日を記載し,権利を取得する相続人には「(相続)」,遺産分割により権利を取得しない相続人には「(分割)」,相続放棄をした相続人には「(放棄)」,などの記載も必要とされていました。古い記載例をみて「相続及び住所を証する書面は還付した」と書かれているのはこのためです。
 ところが,改正法施行後,この取扱いの一部が改められました。
 従前どおりの相続関係説明図の作成添付による原本還付が認められるのは,戸籍謄本又は抄本及び除籍謄本に限られること(上記の1)と2)のみ)となり(*6),遺産分割協議書及び印鑑証明書,相続放棄申述受理証明書その他の証明書類,住民票(被相続人の最後の住民票をも含む)は別途コピーを添付しなければならなくなりました(*7)。
 旧法の扱いだと,遺産分割協議書などの重要な証拠書類が法務局に全く保存されず,後日のトラブル発覚の場合に,どのような書類に基づいて登記が実行されたのかが全く分からないという問題がありました(*7参照)から,この取扱いの変更には異存はなく,むしろ歓迎するべきことだと思います。

 さて,ここからがようやく本題です。
 今回,問題の提起をするのは,相続関係説明図の機能低下によってコピーが増えるなどといったことではなく,そこに記載するべき事項についてです。
 いま述べてきたように,相続関係説明図という書類の名称は同じであっても,その書類が担っている役割には変化が生じています。
 旧法下では,戸籍及び除籍謄抄本,遺産分割協議書,印鑑証明書,住民票などすべての書類の代わりになっていたものが,改正法では戸籍及び除籍謄抄本の代わりにしかなり得ないことになりました。
 すると,相続関係説明図にこれまでどおり住所を記載することはもちろん,「(分割)」や「(相続)」といった記載をしても”意味がない”ことになる一方,戸籍及び除籍謄抄本の代替だけに過ぎなくなった相続関係説明図には本籍を記載しなければ,新たな制度の趣旨にもとることになるのではないでしょうか。
 私はそのように考えて,相続登記の申請の際に添付する相続関係説明図には,氏名,生年月日及び本籍を記載して,住所その他の不必要な事項の記載はしないことにしています。もちろん,遺産分割協議書等のコピーはきちんと添付します。
 しかしそうすると,改正法が施行されて3年以上経ったいまでも,担当登記官から,住所の記載がないとか,(分割)という記載がないとかの「補正」の指示を受けることがあります。その都度,上記の説明をしてご理解いただいているのですが,最近の文献でも従前どおりの記載例を未だに掲げているものを見受けます(*8,*9)。
 不動産登記法に基づく相続登記の申請に添付する相続関係説明図は,上記施行通達の文言では「登記原因証明情報のうち,戸籍謄本又は抄本及び除籍謄本に限り,当該相続関係説明図をこれらの書面の謄本として取り扱って差し支えない」とされたのです。住所に関する情報はもちろん,遺産分割なのか特別受益なのか相続放棄なのかといった情報を包含し得ないのです。
 それらのことを踏まえて,登記官の効率的な事務遂行の確保や申請人の負担軽減という観点から考えると,法務省にはこのあたりでぜひ,相続関係説明図に記載すべき項目の統一見解を発していただきたいものです(*10)。「登記研究」の質疑応答でも十分です。もちろん,相続関係説明図にて戸籍謄本以外の原本還付を認めるという方針転換でないのなら,相続人毎の相続態様や住所の記載は不要である,ということをです。

※ 一般の方にも分かるよう書いたため,厳密には法律上の正確さを欠く部分があります。また,ここで述べたことはあくまで私見です。ご了承下さい。

*1 不動産登記法61条
*2 不動産登記令7条1項5号イ,不動産登記法62条も参照
*3 旧不動産登記法41条
*4 不動産登記規則55条
*5 昭和39年11月21日民甲第3749号民事局長回答,昭和40年8月3日民甲1956号民事局長回答
*6 「不動産登記法の施行に伴う登記事務の取扱いについて」平成17年2月25日民二第457号民事局長通達第1,7参照
*7 「新版不動産登記添付情報全集」(後藤浩平編著、新日本法規出版、2006年)p88~でじつに端的に記載されています。
*8 法務局にも備え置かれている「新不動産登記書式解説(一)」(香川保一編著,テイハン,2006年)p400~には,依然として上記昭和39年,同40年の通達を引用して,「『相続関係説明図』に相続人の住所を明確に記載してある場合には,その証明書の住所証明書の原本還付の取扱いが認められている」なんて書いてあります。
 本書の旧版にあたる「書式精義」のように,法務局にも,司法書士にも,そして受験生にも”バイブル”とされ,書式精義に書いてあることは何でもOK,書いていないことは何でもNG,という時代があったのですが,そんな権威はとうにどこかへ飛んでいってしまったようです。
*9 前掲「新版不動産登記添付情報全集」p265
*10 改正法施行前に公開された法務省民事局のホームページ「新不動産登記法の施行に伴う登記申請書等の様式について(お知らせ)」(http://www.moj.go.jp/MINJI/MINJI79/minji79.html)のなかに相続関係説明図の記載例があります。しかし,これも従前どおりのものを踏襲しているに過ぎません(相続関係説明図に住所を記載すれば,住民票の原本還付が受けられる旨の記載もありますが,現実にはそれで原本還付は受けられません)。

(第56号)

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