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四国遍路第9話(宿毛発多度津経由長浜回り宇和島行き)

 ~オオボケアトムに蛇の目がきらり~

Img_0699Img_0695Img_0697 宿毛駅は、立派な構造の行き止まり駅です。
 しかしここは終着駅ではなく、れっきとした始発駅です。それを証拠に駅構内には、起点を示す0キロポストがあります。
 宿毛については、前話であまりいい話をしませんでしたので、せめてもフォローのつもりで写真の椀飯振る舞いです。

 出発は、Img_0704宿毛7時18分発の窪川行き普通列車。始発列車の方がいいのですが、Img_0700宿毛・中村線が夜明け前になってしまい外が見えないので、2本遅らせました。
 今日は3月9日、日曜日です。当初の予定では、土讃線を阿波池田まで乗り、徳島線、鳴門線に乗車してサンライズで帰ることにしていましたが、周遊きっぷ「四国ゾーン」の有効期間が2日残ること、もう1日あればJR四国全線が完乗となることがわかり、あと1日四国に留まることにしました。
 で、今日向かう先は愛媛県宇和島。昨日通ってきたところですが、土讃線で多度津まで行き、予讃線に乗り換え松山を経由して向かいます。距離にして530.2km。最短距離のじつに10倍以上の大回りです。

 さて、この連載記事でのうんちくさらしも、そろそろ飽きてきたことでしょう。書いている本人がそのような次第ですから、それを読まされている方は苦役かもしれません。憲法違反です。ですから、宿毛線のことについて興味のある方は、宮脇俊三の「線路のない時刻表」(新潮社、1986年)か「全線開通版線路のない時刻表」(講談社文庫、1998年)をぜひご覧下さい(角川書店「宮脇俊三鉄道紀行全集」第3巻に所収)。宿毛訪問の前にこれを読んでいれば、第8話とは違った展開もあったかもしれません。

 列車は窪川まで行きますが、Img_0707途中の中村で接続する特急「南風10号」岡山行きに乗り換えます。中村は大きく立派な駅でした。窓外には気をつけてはいたものの、第7話で紹介した”四国唯一のループ線”に気付くことなく窪川に着いてしまいました。ここからは、昨日通ってきた道を反対にたどり、5分から10分おきの停車を繰り返し、高知、後免、土佐山田と進みます。
 土佐山田-琴平間は普通列車に限ってみれば、閑散ローカル線並みの運転本数で、日中の運転間隔は3時間以上も空く青春18きっぷ泣かせの区間です。土讃線はこの区間で、二度の山越えをします。
 最初の山越えは四国山地。「四国遍路」連載の最初の記事で書いた大杉を過ぎると左窓には吉野川の渓谷があらわれてきます。大歩危までは左側がいいと、昨日、一足先に高松へ向かった王子さま(第7話参照)が教えてくれました。車内放送も流れるハイライトが大歩危・小歩危を通る区間。吉野川を大きな鉄橋で渡ると、小歩危峡が右窓に見え、どちらに座っても渓谷美は楽しめます。
 ちょうど妻から届いたメールに、いま通ったところは大歩危。何と読むでしょう、ヒントはあなたのことです、と返信。返事はなく、帰って玄関のカギも変わっていなかったところを見ると、たぶん読めなかったのでしょう。
 渓谷を20分ほど楽しんで11時09分阿波池田着、3分停まって発車。1つ隣で徳島線と分かれる佃を通過し、列車は左に大きくカーブして吉野川を再び渡ります。川を渡ると再び左に大きくカーブして、阿波池田までとは180度反対を向いて北岸の斜面を登っていきます。二度目の山越えで讃岐山脈を越えると琴平です。
 予讃線に合流するのは多度津ですが、この列車は通過してしまうため、3つ先の宇多津で下車します。宿毛を発ってから4時間半超、11時52分、宇多津到着です。
 いったん改札を出ましたがコンビニはもちろん、売店すらありません。どうやら昼メシは抜きです。昨日から食べ物にはツキがありません。

 11時58分、岡山始発の特急「しおかぜ9号」宇和島行きが到着。この3分後の12時01分、同じホームに高松始発の特急「いしづち13号」松山行きも到着。2つの列車をここ宇多津で連結します。宇多津駅ではこうした分割併合の光景が一日中見られます。
 しおかぜの自由席は満席だったので、ガラガラのいしづちの車両へ移動。Img_0733 ぼんやり過ごして14時05分松山着。いしづちは松山止まりなので、次の伊予市まで行く私は、松山でしおかぜに移動します。松山での12分停車中も昼食は買えず、しかし、念願の”ばいきんまん号”が隣のホームにいるのを発見して納得しました。
 伊予市14時26分着。しおかぜ9号は、今日の目的地宇和島行きですが、伊予市の1駅隣の向井原から線路は2方向に分かれ、特急は内子経由の新線を通って宇和島に行ってしまいます。帰りにラクをするため、伊予長浜経由の旧線を通るべく伊予市で乗り換えです。
 さて、なぜ伊予市-伊予大洲間には2つのルートがあるのでしょう。海岸回りの既設線(長浜経由)を改良するためにこうなったのですが、先に申し上げたように、今回うんちくさらしは止めなので、「地形図でたどる鉄道史・西日本編」(今尾恵介著、JTB、2000年)か、「鉄道廃線跡を歩く」シリーズ各巻(宮脇俊三編著、JTB)をご参照下さい。写真及び地図付きで詳細な解説があります。Img_0734
 長浜経由の宇和島行きは14時48分発。20分ほどあるので改札を出てみました。 すると、駅前にいくつかのお店を発見。立ち食いのような店で昆布そばを注文。すでに火を落とした調理場に、急ぎを告げ5分で作ってもらい、それを一気にかき込みました。ようやく昼メシにありつけました。

 列車は再び無風流なロングシートの1両編成。なんとかなりませんかね、これ。
Img_0738 伊予市を出発したあたりから天気が急変し、雨が降ってきました。向井原を出ると瀬戸内海が見えてくるのですが、今日の海は青くなく白く霞んでいます。3駅目の下灘は、青春18きっぷのポスターに何度か登場した駅です。天気が良かったら、間違いなく降りていたことでしょう。瀬戸内海を見下ろすような高台にあり、菜の花も咲き、眺めはバツグンです。それにしても、最近の青春18きっぷのポスターって、センスいいですよね。私は、好きです。中間の伊予長浜駅では桃色の花が咲きほこっていました。線路脇をうめる菜の花といい、春を実感します。
 16時02分伊予大洲着。Img_0744宇和島には、このあと50分後にくる特急「宇和海15号」が先に着くので、ここで途中下車します。雨で散歩は断念。駅で時間をつぶし、今日の最終ランナー、宇和海15号で宇和島をめざします。
 卯之町をでてトンネルの連続する区間が過ぎると宇和海が前方に垣間見え、みかんの段々畑が車窓に広がります。”西宇和産・愛媛みかん”は有名ですが、みかんの木の多さには圧倒されました。

 宇和島に17時39分到着。
 雨が降っているので、仕方なくタクシーでホテルに向かいます。夕食は、「地元宇和海の新鮮な食材を活かした…郷土料理をご提供」というホテルのレストランでとろうと思います。が、ホテルに着いて愕然。「日曜定休」の札が…。ホームページに一言も書いていないこの事態に、キャンセルして別なホテルを探そうかとも思いましたが、これもまた運命と言い聞かせ、部屋に荷物を置いて外出するしかありません。昨日から宿にもツキがありません。
 かような次第のホテルなのでダメモト、フロントでおすすめの寿司屋を聞いて、傘を借り雨の街に出かけました。

 ライトアップされた宇和島城を、シャッター街の様相を呈するアーケードのある商店街のすき間から見上げながら、紹介されたお店を探し見つけました。
 引き戸を開けると奥の方にカウンターがあり、こわそうなマスターがいました。店内は空いていたにもかかわらず、女性客2人のすぐ隣の席を案内されて座りました。恐る恐る埼玉から来た旨を告げて、生ビールとお刺身をおまかせでお願いしました。
 そんな私を尻目に、隣の女性客はじつに陽気で年齢不詳です。いきなり、「埼玉ならワラビ知ってる?」と。埼玉には蕨という市があります。埼玉のどこから来たかと聞かれるので川越と答えると、サツマイモで有名だと御存知。川越は城下町で蔵づくりの町並みが有名というと、宇和島も城下町で天守閣はできたまんまの状態で国の重要文化財で、それから伊達政宗が……。そんな話で無料の宇和島ガイドを聞きながら、お通しをつまむと、ん!イケる。つづく刺身も新鮮なもので、箸と酒が進みました。にぎりもおまかせしましたが、美味かったこと以外は何を食べたか覚えておらず、ちょいと一杯のつもりが……。
 彼女たちが頼んだ酢の物が美味しそうだったので、こちらも注文。半分あげると彼女たち。丁重に断り、注文。その中に入っていたサヨリをめぐって話はさらに大いに盛り上がり、サヨリはどう書くんじゃ?さかなへんに「参」かなと言えば、マスターが「あじ」とつっこみ、宇和海の小魚はうまいのよとガイドは続けるも、じゃあどういう字か教えろと酔っぱらいになってしまった彼女たち。するとママさんが奥から分厚い魚の図鑑のような事典本を引き出してきて彼女らに手渡す、それを彼女らは左から右へ受け流すように、にいちゃん調べてと。

 ふと気付くと、お店は満員のお客さんであふれていました。
 それ以上何を話したのかはもう忘れましたが、彼女たちがこの店で常連の客であること、宇和島を心から愛していること、マスターは気の利く優しい人であること、それからサヨリは腹が黒い”はらぐろ”であることだけはSayoriよくわかりました。ちなみに、1)サヨリの漢字は、さかなへんに、箴(シン・はり)という字を書きます。2)宇和島城も川越城も”日本100名城”の一城です(この記事を書くにあたって調べました。このくらいのうんちくさらしは右から左でお許しを)。
 すぐ左隣の一番陽気な、”自称”私の母親ぐらいの年齢だという女性は、その後、何度も箸を落としていました。マスターから「今度落としたらカネを取る」と言われる頃、翌朝の始発列車(5時38分発)に乗ることを思い出し、お茶を頂き、勘定をお願いしました。勘定は思いの外、安かったです。彼女たち曰く「この店は宇和島一番」。宇和島再訪は何年後か見当もつきませんが、また立ち寄りたい、そう思いました。

 お店を出る際に、マスターから名刺を頂戴しました。
 名刺によれば、お店の看板は『鮨 蛇の目』。場所は宇和島市中央町1-5-20にあります。定休日は川越一番の寿司屋『川越江戸銀』と同じ木曜です。

 (第10話へ続く)

(第44号)

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コメント

 1カ月ほど前の5月上旬,「蛇の目鮨」さんにお手紙を書きました。お店で名刺を頂いたにもかかわらず,こちらは持ち合わせがなく,しかも名乗らずじまいでお店をあとにしておりましたので,御礼の意味で名刺を送るためです。ついでにブログ記事のプリントも同封しました。
 そうしたところ,昨日,蛇の目鮨さんから宅配便が届きました。「宇和島のじゃこ天を送りますのでお酒のつまみにしながら思い出して下さい」とのお手紙とともに,食べきれないほどたくさんのじゃこ天が入っていました。手紙の内容をもっと引用したいところですが,あまりに面白い内容(o^^o)なので,私一人の中に思い出として仕舞っておくことにします。

 覚えていて下さって何よりでした。また宇和島に,そして蛇の目鮨さんに行きたくなってしまいました。ご覧になっているかどうか分かりませんが,取り急ぎ御礼を申し上げる次第です。

 じゃこ天,美味しく頂きました!!

投稿: 鉄まんアトム | 2008年6月 5日 (木) 23時24分

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