四国遍路第10話(針路は鳴門へ)
~頭の中が”うずしお”に~
4時30分起床。
”毎朝こんなに早く起きて働いたとしたら、もっと偉くなっていたでしょうな”(宮脇俊三著、「最長片道切符の旅」p217より)。
…早起きはダイの苦手です。ゆっくり寝かせてください。”早起きは三文の得”といいますが、三文なんかいらないし、いまさら偉くなる気もありません。ちなみに「三文」を辞書で引くと、総じて「価値の低いことやものをいう」とあります。二束三文のサンモンです。
話の方向が大きく逸れていきました。
ということで、まだ夜です。夜明けの兆候すらない暗闇のなかを駅まで歩くと、意外にもけっこうな人がいます。
宇和島5時38分発特急「宇和海2号」松山行き。この始発列車に乗るにはワケがあります。
この時点で残る四国未乗区間は、1)予讃線及び内子線伊予大洲−内子−向井原間、2)徳島線佃−佐古間、3)鳴門線池谷−鳴門間です。1)はこれから乗る宇和海2号で通るため、残りが問題です。とにかく昨日来た道を多度津まで引き返さなければ話にもなりませんし、そのあと高松先回りでも阿波池田先回りでも、どちらにしても3)の接続が悪いのです。松山での乗り換えが不要な1時間後の特急では、四国全線を完乗して高松に戻るのが夕方になってしまいます。何かの遅れで乗り遅れが生じると、四国完乗どころか東京に帰る列車に乗れなくなる恐れすらあります。家のカギが変わるどころの話ではなくなります。
日程立案者の力量不足は第6話で語ったとおりですが、時刻表と闘った結果、この始発列車に乗ればミステリーもどきの乗り継ぎができることがわかりました。これが机上の空論でなければ、宇野線や宇高フェリーにも乗れるかもしれません。
宇和海2号は宇和島を定刻に発車。窓外の昨日眺めたみかん畑も宇和海も暗闇の中です。6時を過ぎ伊予大洲あたりで明るくなり始め、内子経由の新線をトンネルの出入りを繰り返しながらグイグイ進みます。
順調に松山到着。21分の待ち合わせ、7時19分発特急「しおかぜ8号・いしづち8号」岡山・高松行きに乗り継ぎ、多度津9時21分着。23分の待ち合わせで土讃線の特急「南風3号・しまんと5号」中村・高知行きに乗り換え、阿波池田10時21分着。わずか3分の待ち合わせ、徳島線の10時24分発徳島行き普通列車454Dに乗り込みます。徳島線は吉野川南岸に沿って走り、川を渡ることは一度もなく退屈な風景がつづきます。
さあここからは時刻表を参照しながら、心して読んでください。
徳島に12時22分に着く454D鈍行は、阿波池田を約1時間後に出発する特急「剣山6号」の猛追を受けます。剣山6号の徳島着が12時27分ですから、5分の差しかなくなります。ならば宇和島を1時間遅く出て、この特急に乗った方がよいように思えます。ところが、この5分の差に大きな意味が隠されているのです。
徳島線と高徳線が合流するのは徳島の1駅手前の佐古です。佐古から高徳線を高松方面に行くと吉成、勝瑞、そのつぎが池谷。ここで鳴門線と分かれます(第5話掲載の地図を参照)。
徳島線454Dは佐古に12時19分に着き、佐古12時21分発の高松行き普通列車4340Dに乗り継ぎができることがわかります。が、4340Dの池谷到着は12時45分。10分前に鳴門行き4740Dが行ってしまった後なのです。4740Dに乗るためには、池谷12時32分着の高松行き特急「うずしお14号」に乗らなければなりません。
うずしお14号を含め特急は佐古には停車しないので、これに乗るためには454Dを佐古で降りず、終点の徳島まで乗り通す必要があるのです。454Dは定刻12時22分徳島着。そのわずか2分後の12時24分発のうずしお14号に間に合います。
うずしお14号は徳島を発車するとすぐ、454Dより5分遅れて徳島に着く後続の特急「剣山6号」と複線になっている徳島−佐古間ですれ違います。つまり、1時間遅く出て剣山6号に乗ってくると、徳島到着は5分しか変わらなくなるものの、わずか3分の差でうずしお14号には間に合わず乗り継げないのです。つぎの鳴門行きは13時29分までありませんから、徳島で1時間待たなければなりません。不思議なダイヤです。 話を戻しますと、うずしお14号は佐古を通過し次の吉成も通過しますが、その際高松行きの4340Dを追い抜くのです。だから佐古で乗り換えてしまってはダメなのです。うずしお14号は吉成の次の勝瑞も通過し池谷に12時32分着。ユニークな配置のホームを小走りに3分で乗り換えれば、12時35分発の鳴門行き普通列車4740Dに間に合います。こうして鳴門に12時52分到着。JR四国全線855.2km完乗の
瞬間を迎えました。
感慨にひたる間もわずか17分。今度は鳴門13時09分発の徳島行き普通列車4745Dで折り返します。一方、上り高松行き特急「うずしお16号」は池谷に停まらず、1駅手前の勝瑞に停車。なので4745Dを池谷で降りず1駅越えて勝瑞まで戻ります。時刻表を見ると4745Dは勝瑞発が13時34分。うずしお16号の勝瑞発車も4745Dと同時刻の13時34分。しかも勝瑞駅のホームは向かい合わせの形のため、乗り継ぎは不可能なように思えます。
ところが時刻表をよく見ると、他の普通列車の池谷−勝瑞間の所要は4分なのに、4745Dは6分を要していることになっています。時刻表では紙面の都合から、主要駅を除いて発車時刻だけが掲載されています。勝瑞駅は発車時刻だけが載っています。すると、池谷を13時28分に発車した4745Dは、勝瑞に13時32分に到着することが窺い知れることになります。
かくしてこの机上の空論は、JR四国の定時運行によって現実のものとなり、めでたくうずしお16号の乗客となり14時32分、私は高松にいたのです。
いかがでしたでしょうか?
「それで?」「だから?」「べつに13時29分の鳴門行きでいいじゃん」。そんな声が聞こえてきそうですが…。
しかし、この緻密な乗り換え策には重大なる欠点が1つありました。
あまりに緻密すぎて昼メシを食べたり買ったりするヒマが全くありません。別な意味でおなかは一杯ですけど…。読者の皆さんも、そう?
(第11話へ続く)
(第45号)
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