四国遍路第3話(旅立ち)
~旅の始まりは、一杯のウイスキーから~
私たちを四国へいざなうのは、寝台特急「サンライズ瀬戸」。東京の発車が22時00分とやや遅め。なので、列車に乗り込んだらすぐにウイスキーが飲めるよう、どこかで”先触れ”をしておかなければなりません。
同行者と東京駅で3月6日19時に待ち合わせ、八重洲の東京駅一番街にある「ニュートーキョー」へ行きました。旅の出発にお互いが立ち会えたこと、そして道中の安全を祈願しつつヱビス生で乾杯。つまみを数品たのみ歓談すると、あっという間に20時も半を過ぎました。
早々に会計を済ませ、向かうは同じ八重洲にある大丸デパート。酒好きの旅行者なら誰でも知っているでしょうけど、ここの「トラベルリカー」売場には”真ん丸透明氷”が売っています。21時の閉店を前に、この氷を含めロックアイス、4リットルの水、そして夜食少々を仕入れ、準備万端整い9番線ホームへ向かいます。
まだ30分以上も時間がありますが、この”間”は、夜行列車に乗るときの儀式みたいなもの。何歳になっても一番ワクワクするひとときです。「ツチノコ発見」という東スポの見出しにダマされることもなく、”先触れ”の酔いが覚める頃、列車がホームに入ってきました。いよいよです。
指定された「シングルツイン」に入り、ベッドを畳んで向かい合わせのソファにしました。シングルツインはサンライズ瀬戸7両に8室あり、レールに平行する上下2段のベッドを備えたB寝台の個室です。1人で利用することもできます。下段中央に収納式のテーブルがあって、ベッドの真ん中あたりを取り外すと向かい合わせの座席に変身する仕組み。2人組が談笑するには最高の環境になります。そんな支度をしているうちに22時を迎え、私たちは、東京駅をあとにしました(同行者はこのどさくさの中、さらに「プレミアムモルツ」を仕入れていました)。
列車内で交替にシャワーを済ませ、ようやく『一杯のウイスキー』を戴くときがやってきました。今宵のために同行者が用意したのは、「バランタイン30年」。12年でも、17年でも、21年でもありません。30年です。
のちにデジカメの時刻で確認すると、封を切っている写真は22時45分に撮影。藤沢あたりを走っている頃でしょうか。
とぅくぉん、とぅくぉん、とぅくぉん........
深めの琥珀色、控えめだが未だ知らない香り…。
高らかに乾杯をして、口に含みます。
お互いしばし無言。
なんでしょう、なんといったらいいのでしょう。口から身体じゅう全体に広がるこの感覚。これ以上これを文章で表現することは、私の語彙では、もはや不可能です。ごめんなさい、前置きが長いうえに、看板倒れで。でも、書けないことは書かないほうがいい。「バランタイン30年」は、そんなお酒でした。
列車は、夜の東海道をひたすら西へ…。
…話すネタも尽きず、さすがに酒も尽きず、しかし夜は更け、これにて中締め。
浜名湖を見ることもなく、私はハシゴ階段でうえに上がり、お互い夢路につきました。
(第4話へ続く)
(第37号)
| 固定リンク
コメント